暁に星の花を束ねて
「佐竹蓮が部長止まりなのは、スクナヒコナが企業を名乗るにはあまりに未成熟だからだ。 経営とは、力ではなく系統。血脈と資本の論理で築かれるもの。だが、あそこには血の定義が曖昧すぎる」

「ならば、我らはどうか」

東が問う。

それに答えるように、暁烏が低く笑った。

「カグツチ未来交易戦略機構(Kagutsuchi Quantum Trade)──GQTは、未来と交易を掲げながら、その実、戦略を喰らう怪物。血ではなく、欲望と情報を結合子とする連続体」

「我らには三十八万の兵がいる。法と秩序の外で動く特殊部門《骸隠》もいる。取引所で踊る者も、工場で生む者も、すべて道具に過ぎん」

宗牙は窓を振り返り、満足げに言った。

「そして道具は主を選ばない。そうだろう、アナスタシア」

「……はい。最も合理的な支配とは、選ばせるふりをして、選ばせないことです」

「その通りだ」

名と実の乖離。
それはスクナヒコナ・テクノロジーズという巨艦企業の中枢に巣食う、もっとも危うい矛盾だった。

戦略統括部門部長 佐竹蓮。

その肩書きは部長に過ぎない。
だが彼の掌中にある実権は肩書き以上に重く鋭く、そして恐ろしく正確だった。

CEO少名彦隼人は、誰よりも彼の才を認めていた。
だからこそ恐れた。

もし彼を「本部長」や「副社長」など、後継者として公に据えれば、いずれ己の座が奪われる。
そう悟った隼人は佐竹を名ばかりの「部長」に据え、形式的には後継レースから外した。

だがそれは皮肉にも佐竹を「影の副議長」として、むしろ神秘と畏怖の象徴へと変貌させる結果となった。

会議の方向はその黒手袋の指先ひとつで定まり、数十名の本部長すら、彼の一睨みに息を呑む。

CEOがいようといまいと、最後に決定を下すのはいつも「部長 佐竹蓮」だった。

『影に咲く花ほど、人の心を捉えるものはない』

結果、檻はもはや抑止ではなく、祭壇のようにすら見え始めていた。

「滑稽だろう?」

宗牙はグラスを置き、踵を返す。

「己の恐れが形を成し、その檻に自ら閉じ込められる。あの隼人も、佐竹蓮も。結局は同じ檻の中の哀れな生き物に過ぎん」

< 61 / 200 >

この作品をシェア

pagetop