暁に星の花を束ねて
再び訪れる静寂。
佐竹の手が止まり、ほんの少しだけ思案の色が浮かぶ。

やがて低く答えが落ちた。

「……生存戦略だな」

「!」

「社会的に不利な立場にいた個体が、環境を逆手にとり、短時間で上層へ食い込む。要所で助力を得つつ、最後には自分の意志で足跡を残す。おもしろい話だ」

「お、おもしろい……?」

「他者の救済を待つ話じゃない。彼女は自分で機を掴みに行った。あの靴も、伏線としては有効だ。なければ身元不明のまま終わっていた」

「伏線……まあ、そうですよねぇ……」

「情報戦に伏線……童話のはずですよね、シンデレラって!」

声を上げて笑いながら、結衣はテーブルに倒れ込んだ。

「もう完全に王子様に拾われる、のではなく……上層部に戦略的接近する女性スパイの話ですね」

片岡もまた笑っている。

「佐竹部長にとっての救いは待つことじゃなくて動くこと。立ち向かうこと、なんですね」

「さすが黒手袋の王子将軍。……お姫さまも簡単には守らせてくれないですね」

「……でもわたし、信じてみたいなって思いました」

その声はまっすぐだった。

(結衣ちゃんから借りた本……ちょっと見方変わるかも)

葵はくすりと笑う。
SHTでの、のどかな昼下がりだった。



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