暁に星の花を束ねて
鋭い発砲音。
白煙。
炸裂する火薬の匂い。

そして跳ねた薬莢のひとつが高速で弾かれ、彼の右手の甲へと叩きつけられた。

カシン、と鈍い音。

発射直後の薬莢は火薬の燃焼熱により200℃以上に達することがある。
ほんの一秒も触れれば、通常は皮膚が焼けただれる温度だ。

ジュウッ、と短く音を立てて薬莢は黒い手袋の上に貼りついた。

佐竹は眉ひとつ動かさず、続けて撃ち続ける。

二発、三発、そして七発。

標的の中心にすべて命中させたのち、ようやく銃を降ろした。

静まり返る射撃場。

彼は右手を持ち上げて、じっと眺めた。

黒い手袋の甲が一部だけ不自然に溶け、焦げたような変色が広がっている。
指でそこに軽く触れる。

「……やれやれ」

低く吐いたひとことは叱責でも怒りでもなく、ただ事実を確認するような調子だった。

「部長! すぐ手当てを……!」

若い開発課員が駆け寄ろうとする。

佐竹はそちらを一瞥し、無言のまま首を振った。

手袋の隙間からわずかに覗く皮膚は、赤く焼けただれている。
しかし彼はまるで痛みを感じていないか様に、いつものように冷静だった。

「対熱素材の強化を要求する。排莢軌道も再調整。……四時間後、次の試験だ」

ゴーグルを外すと命令だけを残し、佐竹は足音も静かに射撃レンジを後にした。




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