#shion【連載中】
 文化祭は二日間とも、大盛況だった。

 僕たち脚本グループの役割は、当日の受付係。父兄や在校生たちにチケットを配って、人数の調整をして、時間になれば教室に誘導する。やってみると、案外忙しい。
 グループはふた手に分かれた。高瀬と三角さん、僕と桜井さん。それぞれ交代で受付を回す。

「つくん!! 律、くん!!」
「っ、あ、っ……ごめん、聞いてる!」

 二日目の僕は、完全に上の空だった。
 理由はひとつ。───今日は、僕の誕生日。
 いつもは「まあ、ちょっと嬉しい日」くらいの感覚だった。でも今年は違う。
 だって、司音が言ってくれたのだ───僕の誕生日を、祝いたいって。

「どうしたの? 疲れちゃった? 今日はちょっと変だね、律くん」

 桜井さんが僕の腕に片腕を絡め、ぐっと体を寄せてくる。
 そのまま手招きして、くすっと笑いながら耳元でささやいた。

「さっき、あそこの中学生、律くんに見惚れてたよ?
 ……カップルに見えたかな、うちら」
「えー……なんだあの変な奴、って思われただけでしょ……」

 校内はひどく混雑していた。もう少しで満員電車になりそうなくらい。
 桜井さんの「文化祭、一緒に回ろ!」という誘いに乗ったはいいけれど、どこもかしこも行列続きで、僕はすっかりバテていた。

 カレンダーでは秋のはずなのに、夏の奴はまだ居座っているらしい。
 暑さに弱い僕には、この残暑がなかなか手強い。

「さ・く・ら」
「へ?」
「“さくら”って呼んでって、前にも言ったのに。律くん、ひどいなあ」

 むーっと頬を膨らませる桜井さんは、アザラシの赤ちゃんみたいに愛くるしかった。
 ───でも、最近気付いた。
 桜井さんは僕と同じ"日陰の人"なんかじゃない。
 彼女は、圧倒的に「モテる」人だ。
 控えめな雰囲気とは裏腹に、気配り上手で、やさしくて、誰にでも自然に接することができる。
 僕と仲良くしてくれてることが、まさにその証拠。

「ごめんって。喉が渇いたんだけど、外……行かない? ……さくら」
「ん、いいよ。どこも混んでるし、行こっ」

 ぎゅっ、と自然に繋がれる手のひら。
 高校に入るまで、手を繋いで歩くような友達がいたことなんてなかった。
 少しだけ照れくさくて、でもどこか、くすぐったくて───

 指先から、知らないあたたかさが伝わってきた。



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