#shion【連載中】
 僕たちは体育館脇の自販機でジュースを買って、近くのベンチでひと息ついた。
 気温はまだ高いのに、空には秋の青が広がっていて、耳を撫でる風もほんの少しだけ冷たくなっていた。
 目の前をトンボがすうっと通り過ぎていく。
 筋状に流れる雲が、きれいで、僕は思わずスマホを取り出してカメラを構えた。

「律くんてさ、インスタとか、やってる?」

 桜井さんが、レモンティーを飲みながら聞いてきた。
「やってないよ」
「ふーん。律くん、写真よく撮るから、こっそりアカウント持ってるのかと思ってた」

 ───鋭い。
 僕は無言でオレンジジュースをすする。
 司音との記録は、誰にも話していない。僕たちの関係は、ふたりだけの秘密だ。

「ねえ、今夜の打ち上げ、来るよね? 焼き肉食べ放題」
「うん。遅くならなければ」
「門限?」
「……ちょっと、大事な予定があるんだ」
「ふーん」

 何気なく周囲を眺めていた僕に、ぴたりと桜井さんの視線が重なった。
 口には出さないけれど───何かを言いたげな、強い目。

「律くん、他校にいるでしょ、彼女……いや、彼氏?」
「ぶっ……!」
 オレンジジュースを吹き出しそうになる。
 突拍子もない推理に、不意に喉の奥から笑いがこぼれた。

「いきなり何言うの、さくら」
 桜井さんはきょとんとしている。───どうやら、本気だったらしい。
「いないよ」と僕は言う。少なくとも、“他校には”。
「よかったぁ〜〜〜〜〜〜」
 ぐにゃん、と桜井さんが力なく脱力した。
 その姿はまるで、溶けたスライムのようだった。

 でも、すぐに身を起こして、桜井さんは僕にまっすぐ身を乗り出してきた。
 ふんわりした雰囲気の中に、百人一首の選手らしい真剣さが宿る。


「じゃあ、律くんを誘っていいかな。……今度の、秋祭り」


 ぎゅ、と眉を寄せて、小さく、けれど確かにそう言った。
「秋祭りって……いつだっけ?」
 拍子抜けするような返事をしてしまって、桜井さんが再び脱力する。
「来月だよ〜。花火、盛大に上がるじゃん!」
「あ、ごめん……。あんまり興味なくて。……でも、うん。一緒に行こう」

 “花火”と聞いて、僕は俄然前向きになった。
 花火の写真や動画を、司音に見せたらきっと喜んでくれる──そう思ったから。

「じゃあ、戻ろっか。ね、教室で写真撮らない? 脚本班の思い出に」
「うん。……ありがとう、さくら」







 僕たちのクラスは、全校生徒と来場者、教職員による投票で、演劇・映画部門の《最優秀賞》を受賞した。
 「脚本が良かった」と言われた時、胸の奥がじんわりと熱くなった。

 クラスのみんなでハイタッチをして、お揃いのTシャツで写真を撮って。
 僕は高校生新聞の記者にインタビューされながら、自分が書いた物語のことを一生懸命に話した。
 それを、桜井さんが何枚も何枚も、写真に残してくれていた。



 打ち上げでお腹がいっぱいになるほど食べたあと、僕はすぐに帰宅して、浴室に飛び込んだ。
 ずっと、話したい人がいたから───。


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