アリのように必死に。 そして、トンボのように立ち止まったり、後戻りしながら。 シジミチョウのように、柔らかな青に染まった翅を自在に動かして、私は飛んでいく。
06
蕾ちゃんへの研究会の説明がひと段落したところで、昆虫の新聞づくりをやり始めた。
お題は「好きな昆虫」。
蕾ちゃんにも、「せっかく来たんだから」と、若葉さんに言いくるめられ、新聞作成をしてもらった。
お昼のチャイムが鳴ったところで、私たちは食堂に向かった。
みんなの食堂へ行く準備が整うと、若葉さんはいつも通りこぶしを掲げて「出発進行!」と言った。
食堂に入ると、いつも通りたくさんの人が行きかっていた。
まずは席取り。奥谷君が友達に声をかけて、その人たちが食べ終わったらと、五人一緒の席の予約が取れた。
次は食券。席の見張り役は奥谷君の提案でジャンケンで決めることに。
「ジャンケンポン」
若葉さんの掛け声でみんながじゃんけんの手を出す。
奥谷君の一人負け。
言い出しっぺが負けるっていうのは、本当にあるらしい。
「俺のから揚げ定食な!」
奥谷君が若葉さんに悔し泣きに叫ぶ。
私もいつも通り自然定食。蕾ちゃんは悩んだ末、オムライスを選んでいた。
「あざっす!」
若葉さんが奥谷君の前に定食の載ったトレーを置いた。特段に大きくて、おいしそうなキツネ色をしている。
「いただきます」
若葉さんの掛け声を復唱して、箸に手を付ける。
私も遅れまいと箸を掴み、サラダを口に運ぶ。ゴマの入ったドレッシングがトマトとキャベツにかかっていて、塩味もあり、おいしい。サラダの皿が空になったところで、箸を置いて、水を口に含む。
「ごちそうさまでした」
目をつぶって、手を指の先まで合わせて、その言葉を言う。
いつもながら、一つ一つの動作が丁寧だ。
私もいつもより、丁寧に言うことを意識してみた。
空っぽになった器を見て、人間って食べる量多いよな、なんて思う。昆虫は花の蜜を吸ったり、他の虫を捕まえて食べたり、食べるのに労力がかかる割に、少ないよな。
食堂を出て、一度「昆虫研究室」に戻った後、私、若葉さん、蕾ちゃんの三人で虫取り網と虫かごを持って、抜け出した。
「蕾ちゃんが来た記念に、シジミチョウ飼わない?」
という若葉さんの提案。
「若葉さんが、シジミチョウ飼いたいだけじゃないですか」
と、奥谷君の突っ込みもあったが、蕾ちゃんの
「飼いたいです」
という声で、シジミチョウを捕まえることになった。
奥谷君は、「俺も行きたい」と、最後までごねていたが、「新聞作るの、奥谷いつも遅いんだから」と、若葉さんに言い返されていた。
大学を出て、近くの公園に行く。
公園には、他に人はいなくて、私たち3人だけ。
「よし!じゃあ、捜索開始!」
若葉さんが虫取り網を持って、花壇の方へ駆け出す。
それを追いかけて、私たちも走り出す。蕾ちゃんも若葉さんも足が速くて、置いてかれそうになったのだが。
花壇には、ヤマトシジミが好きそうなカタバミやメランポジウムなどが咲いていた。
そのメランポジウムの花の先に、ヤマトシジミが止まった。
「見つけたよ」
囁くように、二人に告げると、そっとこっちに寄ってきた。
音を立てないよう、慎重に網を近づけていく。
「せーの」
若葉さんの掛け声で、一斉に網をかけた。
そっと、網の様子を見ると、蕾ちゃんの網にヤマトシジミが入っていた。
若葉さんが虫かごの蓋をスライドし、蕾ちゃんが網を移動して、掴んだ手を放す。
虫かごの中に、ヤマトシジミを捕まえた。
真っ白な翅に、黒い斑点。
「やった」
若葉さんが蕾ちゃんにハイタッチする。私の方にも、手のしわが見えるように、両手を向けた。戸惑いながらも、その手にゆっくりと自分の手を合わせる。
若葉さんが、ふふっと笑い、小さな声で「ナイス!」と囁いた。
「ねえね、ちょっとだけ、遊ばない?」
若葉さんの提案。
「いいんですか?」
蕾ちゃんが、若葉さんに確認する。
「大丈夫。大丈夫」
「何やります?」
「うーん、芽生ちゃん何やりたい?」
ーえ。私⁉ 公園で集団で遊んだこと、そんなにないんだけどな。
「何がいい?」
若葉さんにせかされて、なんとなく思いついたものを呟く。
「えと、おにごっことか」
若葉さんと蕾ちゃんが見つめ合って、戸惑っている。
大学生がやる遊びじゃないよな。他のもの。他のもの…。
「よし。じゃあ、それ、やろう」
「懐かしいですね。面白そうです」
「おに決め、おに決め、だれがおにかな」
若葉さんが順に靴を指す。指されたのは私。
「10秒数えてね」
そう言いながら、若葉さんと蕾ちゃんが逃げていく。
それを見て、顔をふさぎながら、「いーち、にー」と数字を数える。
「じゅう」と言って、顔を上げると、静かになっていた。
「こっち、だよー」
若葉さんが数メートルほど先で、手を振っている。
走り出すが、一向に差が縮まらず、逃げられてしまう。
そこに、蕾ちゃんも合流してくる。が、やっぱり追いつけない。
-というか、ずっと捕まえられないのでは。二人とも、速すぎる。
「もう、芽生ちゃんもっと体力つけなよ。逃げる方、歩きね」
それを見かねたのか、若葉さんが捕まえやすくしてくれた。
「あ、りがとう、ござい、ます」
ハアハア言いながら、とぎれとぎれにお礼を言う。
そばに来た蕾ちゃんをなんとか追いかけて、捕まえる。そして、木の方でチョウに気を取られていた若葉さんを後ろから歩み寄って、捕まえた。
今度は、蕾ちゃんがおに。始まって早々、私は捕まり、捕まえたヤマトシジミを見ていた。若葉さんは、結構長い間、逃げ伸びていた。
若葉さんがおにの番でも、私はやはり即刻、捕まった。
体力がないことを痛感したし、疲れたけど、楽しかった。
お題は「好きな昆虫」。
蕾ちゃんにも、「せっかく来たんだから」と、若葉さんに言いくるめられ、新聞作成をしてもらった。
お昼のチャイムが鳴ったところで、私たちは食堂に向かった。
みんなの食堂へ行く準備が整うと、若葉さんはいつも通りこぶしを掲げて「出発進行!」と言った。
食堂に入ると、いつも通りたくさんの人が行きかっていた。
まずは席取り。奥谷君が友達に声をかけて、その人たちが食べ終わったらと、五人一緒の席の予約が取れた。
次は食券。席の見張り役は奥谷君の提案でジャンケンで決めることに。
「ジャンケンポン」
若葉さんの掛け声でみんながじゃんけんの手を出す。
奥谷君の一人負け。
言い出しっぺが負けるっていうのは、本当にあるらしい。
「俺のから揚げ定食な!」
奥谷君が若葉さんに悔し泣きに叫ぶ。
私もいつも通り自然定食。蕾ちゃんは悩んだ末、オムライスを選んでいた。
「あざっす!」
若葉さんが奥谷君の前に定食の載ったトレーを置いた。特段に大きくて、おいしそうなキツネ色をしている。
「いただきます」
若葉さんの掛け声を復唱して、箸に手を付ける。
私も遅れまいと箸を掴み、サラダを口に運ぶ。ゴマの入ったドレッシングがトマトとキャベツにかかっていて、塩味もあり、おいしい。サラダの皿が空になったところで、箸を置いて、水を口に含む。
「ごちそうさまでした」
目をつぶって、手を指の先まで合わせて、その言葉を言う。
いつもながら、一つ一つの動作が丁寧だ。
私もいつもより、丁寧に言うことを意識してみた。
空っぽになった器を見て、人間って食べる量多いよな、なんて思う。昆虫は花の蜜を吸ったり、他の虫を捕まえて食べたり、食べるのに労力がかかる割に、少ないよな。
食堂を出て、一度「昆虫研究室」に戻った後、私、若葉さん、蕾ちゃんの三人で虫取り網と虫かごを持って、抜け出した。
「蕾ちゃんが来た記念に、シジミチョウ飼わない?」
という若葉さんの提案。
「若葉さんが、シジミチョウ飼いたいだけじゃないですか」
と、奥谷君の突っ込みもあったが、蕾ちゃんの
「飼いたいです」
という声で、シジミチョウを捕まえることになった。
奥谷君は、「俺も行きたい」と、最後までごねていたが、「新聞作るの、奥谷いつも遅いんだから」と、若葉さんに言い返されていた。
大学を出て、近くの公園に行く。
公園には、他に人はいなくて、私たち3人だけ。
「よし!じゃあ、捜索開始!」
若葉さんが虫取り網を持って、花壇の方へ駆け出す。
それを追いかけて、私たちも走り出す。蕾ちゃんも若葉さんも足が速くて、置いてかれそうになったのだが。
花壇には、ヤマトシジミが好きそうなカタバミやメランポジウムなどが咲いていた。
そのメランポジウムの花の先に、ヤマトシジミが止まった。
「見つけたよ」
囁くように、二人に告げると、そっとこっちに寄ってきた。
音を立てないよう、慎重に網を近づけていく。
「せーの」
若葉さんの掛け声で、一斉に網をかけた。
そっと、網の様子を見ると、蕾ちゃんの網にヤマトシジミが入っていた。
若葉さんが虫かごの蓋をスライドし、蕾ちゃんが網を移動して、掴んだ手を放す。
虫かごの中に、ヤマトシジミを捕まえた。
真っ白な翅に、黒い斑点。
「やった」
若葉さんが蕾ちゃんにハイタッチする。私の方にも、手のしわが見えるように、両手を向けた。戸惑いながらも、その手にゆっくりと自分の手を合わせる。
若葉さんが、ふふっと笑い、小さな声で「ナイス!」と囁いた。
「ねえね、ちょっとだけ、遊ばない?」
若葉さんの提案。
「いいんですか?」
蕾ちゃんが、若葉さんに確認する。
「大丈夫。大丈夫」
「何やります?」
「うーん、芽生ちゃん何やりたい?」
ーえ。私⁉ 公園で集団で遊んだこと、そんなにないんだけどな。
「何がいい?」
若葉さんにせかされて、なんとなく思いついたものを呟く。
「えと、おにごっことか」
若葉さんと蕾ちゃんが見つめ合って、戸惑っている。
大学生がやる遊びじゃないよな。他のもの。他のもの…。
「よし。じゃあ、それ、やろう」
「懐かしいですね。面白そうです」
「おに決め、おに決め、だれがおにかな」
若葉さんが順に靴を指す。指されたのは私。
「10秒数えてね」
そう言いながら、若葉さんと蕾ちゃんが逃げていく。
それを見て、顔をふさぎながら、「いーち、にー」と数字を数える。
「じゅう」と言って、顔を上げると、静かになっていた。
「こっち、だよー」
若葉さんが数メートルほど先で、手を振っている。
走り出すが、一向に差が縮まらず、逃げられてしまう。
そこに、蕾ちゃんも合流してくる。が、やっぱり追いつけない。
-というか、ずっと捕まえられないのでは。二人とも、速すぎる。
「もう、芽生ちゃんもっと体力つけなよ。逃げる方、歩きね」
それを見かねたのか、若葉さんが捕まえやすくしてくれた。
「あ、りがとう、ござい、ます」
ハアハア言いながら、とぎれとぎれにお礼を言う。
そばに来た蕾ちゃんをなんとか追いかけて、捕まえる。そして、木の方でチョウに気を取られていた若葉さんを後ろから歩み寄って、捕まえた。
今度は、蕾ちゃんがおに。始まって早々、私は捕まり、捕まえたヤマトシジミを見ていた。若葉さんは、結構長い間、逃げ伸びていた。
若葉さんがおにの番でも、私はやはり即刻、捕まった。
体力がないことを痛感したし、疲れたけど、楽しかった。