アリのように必死に。 そして、トンボのように立ち止まったり、後戻りしながら。 シジミチョウのように、柔らかな青に染まった翅を自在に動かして、私は飛んでいく。

09

「蕾ちゃん。やっほ~」

 若葉さんが蕾ちゃんに向かって手を振る。

 蕾ちゃんがその声に気づき、顔を上げた。

 顔を手で覆い、膝から崩れた。コンクリートに膝をつけて、顔から溢れんばかりのしずくを垂らして。

 泣い、てた。

 
 若葉さんが蕾ちゃんのもとに走ってく。

 蕾ちゃんの横にしゃがみ込んで、ハンカチを差し出す。蕾ちゃんはそれを受け取って、涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭いていた。

 私は、棒立ち状態。

 蕾ちゃんが泣いてるのが別世界のようで、泣いてるっていう事実が呑み込めなかった。

 明るく楽しそうにしている子でも、苦しいことがあるなんて、思っても見なかった。


 でも、その蕾ちゃんの泣いてる姿を見て、安心してる自分もいた。

 私だけしかいないのが嫌で来なかったわけじゃないって、ことだから。


 私も何か動かないと。

 それが気付かれないように。

 その罪悪感を軽くするために。

 私は、近くにあった自動販売機の方に走った。

 お財布から小銭を取り出して、水を買う。それを持って、蕾ちゃんのもとに走った。


 「ありがとう、ございます」
 
 蕾ちゃんが涙ながらにその水を受け取った。

 その声に、罪悪感がこもる。
 
 若葉さんは、子供みたく頭をなでて、蕾ちゃんを励ましてる。

 なのに、自分は__。

 
 一滴一滴と、罪悪感が心の中に積もっていく。


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