アリのように必死に。 そして、トンボのように立ち止まったり、後戻りしながら。 シジミチョウのように、柔らかな青に染まった翅を自在に動かして、私は飛んでいく。

08

火曜日、研究室で置いてある本を読んでいると、スマホの通知音が鳴った。

 蕾ちゃんから。研究室のグループチャットにメッセージが入っていた。 

 「芽生さん。すみません。今日は予定があるので、行けないです」


 昨日も同じようなメッセージが送られてきていた。


 ー本当に、ただ用があって、行けないだけなのかもしれない。だけど、もしかしたら、私だけじゃ、行くの面倒なのかなって、心の奥で思ってしまう。

 迷った末、不安を拭いきれなくて、次の日は、若葉さんを誘ってみることにした。

 私だけなら、来てくれないかもしれないけど、若葉さんがいることを知ったら、来てくれるかもしれない。
 

 「あの、」

 私の声に気づかず、キーボードを打っている。

 ーどうしよう。

 肩を叩くか迷いながら、手を押したり、引いたりしていると、若葉さんが私の方に振り返った。

 「わ、びっくりした」

 「どうしたの?」

 「蕾ちゃんのとこ、一緒に行きませんか?」

 ほんのちょっと、一緒に、という言葉に力を込めて言う。

 「いいの?行って」

 と、嬉しそうな顔。

 
 「蕾ちゃん。今日は若葉さんも誘いました」

 グループチャットに、そう送る。

 蕾ちゃんに、来てほしい気持ちもある。だけど、来てほしくない気持ちも、両方が入り交ざってる。

 もし、今日だけ来たら私だけじゃ行きたくなくて、若葉さんの方がいいってことだから。


 若葉さんと少し話しながら、蕾ちゃんとのいつもの待ち合わせ場所に向かう。

 「蕾ちゃんと、どんな経緯で出会ったの?」

 「道ですれ違って」


 その場所に着くと、若葉さんは鼻から気持ちよさそうに息を吸い、「きれい」と呟いた。

 「どうやって、こんないい場所見つけたの?」

 「行き当たりばったりで」

 また、少し話しながら10分ほど待っていると、向こう側から蕾ちゃんが歩いてきた。

 俯きながら、ゆっくりと歩いてきた。
 
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