許しの花と愛のカタチ
プロローグ
 轟音と炎。
 夜空を焦がす火の手に、忍は息を呑んだ。

 近所に住む11歳の少女、海原忍は、買い物帰りの袋を落としたまま、赤々と燃える家の前で立ち尽くしていた。

 助けを求める泣き声が聞こえる。足は震えていたが、それ以上に放ってはおけなかった。

 「大丈夫。私がいるから……」

 炎の中へ駆け込んだ忍は、小さな少年を抱きかかえる。

 すすで真っ黒になったその少年が泣き叫ぶ声を聞きながら、出口を探し、必死に走った。

 外に飛び出した瞬間、忍の視界は白く弾け、気を失った。

 気づけば病院のベッドの上。

 左目は失われ、顔には焼け跡が残っていた。

 「忍が助けたことは、絶対に言ってはいけない」

 両親はそう告げた。罪悪感を抱かせないために。
 やがて忍は転院し、姿を消した。

 残された少年の名は芹沢碧葉(せりさわ・あおば)。

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