許しの花と愛のカタチ
「そんな…私には、そんな資格は…」
「資格なら、ある!」
声を上げたのは、碧葉だった。
彼は忍の前に進み出ると、その両手を固く握った。
「忍さん。君は、僕を救ってくれた。そして、叔父さんも救ってくれた。君はもう、十分に罪を償った。いや、そもそも君に罪なんてないんだ。これからは、自分の幸せを考えてほしい」
碧葉の瞳が、まっすぐに忍を射抜く。
「君がどんな顔だって、僕の気持ちは変わらない。でも、もしその傷が君を縛り付けているのなら、僕は君に過去から自由になってほしい。そして、何も隠さずに笑ってほしいんだ」
「碧葉さん…」
「これは、俺たち全員からの、恩返しだ。いや、願いだと言わせてほしい」
蓮斗が、深々と頭を下げた。
「忍ちゃん。どうか、俺たちの想いを受け取ってはくれないだろうか」
父の親友たちからの、そして愛する人からの、魂からの願い。
忍の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「…幸せになってはいけないって思っていました。…後悔ばかりで…この火傷のあとは、私にとって贖罪だと思っていました…」
「忍さん。僕は思うよ、亡くなった父さんも母さんも。きっと、忍さんにすごく感謝していると思う。二人が亡くなったのは、忍さんのせいじゃないよ」
涙がいっぱいの目で、忍は碧葉を見つめる。
揺れる忍の右目は、好き通る漆黒の黒だが、とても純真な綺麗な瞳をしている。
「父さんと、母さん。二人が決めてきた、人生を全うしたんだと僕は思うよ。…僕を育ててくれた、蓮斗叔父さんだって。自分の命が危ういのに、僕を必死に育ててくれた。…おじさんが引き取てくれなかったら、僕は忍さんに出会うことができなかったから。今は、すごく感謝している」
「…私で…いいのですか?…あなたより、年上だし…こんな…」
「もういいよ。自分を責めることはやめよう。…誰も悪くない。今、生きている僕たちが幸せになることが。亡くなった人への恩返しだよ」
「私…左目がほとんど見えないから…迷惑をかけてしまうと…」
碧葉はそっと忍の左目の眼帯に触れた。
「じゃあ、僕が忍さんの左目になるよ。だから、見える右目でこれから沢山幸せを見ていこう」
もう何も言えない。
忍はそっと頷くしかできなかった。
だが、二十年間、固く閉ざしてきた心の扉が、彼らの温かい想いによって、少しずつ開かれていくのがわかった。
「…一緒に、乗り越えよう。僕がずっと、そばにいるから」
碧葉の言葉に、忍は涙に濡れた顔で、小さく、しかしはっきりと頷いた。
親友との再会そして和解。
20年想い続けてきた人に届いた愛。
今ここに、様々な形で願ったに違いない。