許しの花と愛のカタチ

数年後。
柔らかな光に満ちたクラシカルなチャペル。
ステンドグラスを通して降り注ぐ光が、バージンロードを歩む二人を幻想的に照らし出している。

純白のウェディングドレスをまとった忍と、隣に立つタキシード姿の碧葉。彼らの表情には、穏やかな幸福が満ちていた。
式の直前、ブライズルームで準備を終えた忍の元へ、父・昴がやってきた。
その手には、少し黄ばんだ一通の封筒が握られている。

「忍。これは…母さんからだ」
「お母さんから?」
「ああ。あいつが事故に遭う少し前に、書いていたらしい。いつかお前が、本当に幸せになる日に渡してほしい、と」
昴から手渡された封筒を開けると、そこには懐かしい母の文字が並んでいた。

『忍へ。
これをあなたが読んでいる時、あなたはどんな笑顔をしていますか?
隣には、あなたのことを心から愛してくれる人がいますか?
お父さんも母さんも、忍をとても愛しています。だから、どうか幸せになって下さい。
あなたがどんな姿であっても、決して忘れないで。あなたの心が、誰よりも美しく、きれいであることを。
これからの人生、忍が心から笑って、幸せでいる事を、母さんはずっとずっと祈っています』

変わらぬ母の深い愛に触れ、忍は声を殺して泣いた。
顔の傷のせいで、自分は幸せになってはいけないのだと、ずっとそう思って生きてきた。
けれど、母は全てお見通しだったのだ。どんな姿であろうと、娘の幸せだけを願っていてくれた。

「お母さん…ありがとう…」
それは、過去の自分を完全に赦し、未来の幸せを掴むことを誓う、感謝の涙だった。

涙を拭い、晴れやかな顔で父・昴と共にチャペルの扉を開ける。バージンロードの先で、碧葉が優しい眼差しで彼女を待っていた。
一歩、また一歩と進むたびに、これまでの苦難の日々が走馬灯のように蘇る。
だが、もう恐れることはない。
祭壇の前で、昴は碧葉の手を取り、その上に忍の手をそっと重ねた。

「碧葉くん。私の、たった一人の大切な娘だ。どうか、生涯をかけて幸せにしてやってくれ」
「はい、お義父さん。必ず」

固い握手と共に、忍の手が碧-葉に託される。
客席の最前列では、蓮斗が自分の胸に手を当て、静かに涙を流していた。
彼の胸で力強く鼓動する純那の心臓もまた、娘の晴れ姿を祝福しているかのようだった。



逮捕された利己は、昴の弁護のもと、母が遺した日記を目にした。
そこには、育児放棄をする前の、娘の誕生を心から待ち望む愛情溢れる言葉が綴られていた。
初めて親の真実の愛に触れた利己は号泣し、長年彼女を支配していた憎悪と狂気から解放される。彼女は正気を取り戻し、自らの罪と向き合い、静かに償いの道を歩み始めた。

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