鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~
朝に・1
要から救い出された次の日。
朝起きて、身支度を済ませて用意されていたワンピースを着た鎖子。
屋敷内を歩いていると、鎖子を見つけたメイドが驚いた声を上げた。
「まぁ鎖子様!? こんな早朝に、どうなされました!? 何か足りないものがございましたか?」
「おはようございます。私も何かお手伝いをしようかと……厨房を探しておりました」
「へっ? お、お手伝いとは……?」
メイドが更に目を丸くする。
「ご迷惑でなければ、朝ご飯の支度のお手伝いをしようかと……私、ある程度の炊事はできますので」
「ご迷惑など、とんでもございません。ですが此処では鎖子様に、そのような事をさせるわけにはいけませんので……まだ四時でございます。朝食は六時でございます。どうぞお部屋で、ゆっくりとおくつろぎなさってください」
「お世話になるのに、申し訳なくて……」
「要様から、丁寧に何不自由なくおもてなしするよう言われております。奥方様にお手伝いなどさせたら私共が叱られてしまいます」
「そ、そんな」
「冗談でございます。要様はとても優しい御方ですから」
メイドが明るく微笑んだので、鎖子はホッとする。
「はい……それではお手伝いは控えます」
「ゆっくりなさってください。温かいお茶でもお持ちいたしましょうか?」
「いえ、大丈夫です」
仕事を増やしてしまってはどうしようもない。
「あの、朝食はどこで……」
「お部屋で召し上がれるように、ご用意いたします。岡崎が朝のご挨拶に行かれると思いますので、その時にまた何かありましたら、お申し付けくださいませ」
「は、はい。失礼いたしました」
鎖子がペコペコと頭を下げると、メイドも頭を下げた。
かえって迷惑になるような事はしてはいけない……と鎖子は部屋に戻る。
普段は朝ご飯の支度をして、掃除をし、朝ご飯を配膳して、愛蘭達が食べ終わってから急いで朝ご飯を食べて学校へ行っていた。
使用人はよく働く鎖子を当てにしていたので、鎖子がいないとまわらない状況だったのだ。
「何もしていないとソワソワするわ……」
ぬいぐるみを抱き締めて、ソファに座る。
部屋で何をしようか……。
豪華な本棚を見つけたので、何か本はあるかと近づいて見ると窓から庭が見えた。
朝靄に包まれた庭。
こちらも和の庭園ではなく、洋風に整えられている。
「素敵なお庭……西洋風ガーデンというのかしら」
朝の透き通った空気が鎖子は大好きだったが、朝は忙しく深呼吸する暇もなかった。
「お外に出てみたいわ……」
しかし、こんな早朝に勝手に玄関を開けて出て行っては驚かせてしまうだろう。
「あ、そういえば……この部屋は、不思議な扉があったわね」
鎖子の部屋はいくつか部屋があったのだが、庭に面する書斎に扉があったのだ。
珍しいと思ったが、庭へ出るための扉のようだった。
「ちょっとだけ出てみようかしら」
鎖子は、久しぶりに湧き出た好奇心で扉を開ける。
清々しい朝の空気。
そして花の香り。
「こんな時期にもう……薔薇……? 良い香り、とても綺麗。奇跡のお庭ね」
今は桜の季節。
薔薇にはまだ早い時期だが、確かに咲いて香っているのは薔薇だ。
沢山の薔薇が可憐に咲き誇って、朝露に濡れ、鎖子は美しさに感嘆のため息を漏らす。
「あ……」
少し歩いた先に、鍛錬場所があった。
そこに……要がいた。