鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

誰ガ為の花嫁

 これから婚姻の儀をすると、叫んだ金剛。
 将暉の顔が、真っ赤になってニヤニヤと口元が緩む。

「父さん! 父さん! やっぱり鎖子を俺の花嫁にしてくれるんだよね!? 減退したっていいよ!」

 寒気がして、涙が凍りつくようだった。
 梅が守るように抱き締めてくれる。

「はぁ!? 将暉、あんた何を!?」

 拍手して笑っていた愛蘭が、将暉の言葉に驚愕の目を向ける。

「うるさい! お前みたいな性悪のブスなんて俺は愛していない!! 婚約破棄だ!!」

「ま、将暉~~~~!!?」

 愛蘭が絶叫した。
 しかし将暉は、頬を紅潮させ興奮している。

「ありがとう父さん! 嬉しいよ。俺はずっと鎖子が好きで、結婚したかったんだ……! 鎖子は俺の花嫁だ!」
 
「ふざけるなバカ息子が!! 俺の、この金剛勝時の花嫁に決まっているだろうがぁああ!!」

 はしゃぐ将暉を一喝する怒声。

 金剛勝時の、花嫁……?
 
 叔父と叔母以外は笑い、拍手をする。
 鎖子と、梅と岡崎は化け物を見るような青ざめた顔で金剛を見た。

「私が……金剛勝時の……花嫁……?」

「え? 父さん……の花嫁……?」

 将暉も呆然として、自分の父を見る。

「鎖子~未亡人のままじゃなくて良かったなぁ~金剛氏にもらってもらえるだなんて、父さん嬉しいよ!」

「ほっんと! 良かったわねぇ! 金剛家夫人なんて、やるじゃな~い。ずる~い」

 叔父と叔母は、この企みを知っているようだった。

「将暉ーー! あんた、あんたどういうつもり!?」

「い、いや……俺は、愛蘭……えっと」
 
 愛蘭が、将暉に殴りかかり将暉が言い訳を始めた。
 そんな二人の争いなど、目に入れたくもないほど、どうでもいい。

「一体、なんの話をしているのですか!? 私は九鬼兜要の妻です! 他の誰にも嫁ぐ気はありません! 私を愚弄するのもいい加減にしてください! 梅さん岡崎さん、帰りましょう!」

「はい! すぐにでも! 鎖子お嬢様は要様の花嫁なんです!」

「鎖子様、梅さん、気をつけてくださいっ!」

 鎖子と梅が支え合いながら立ち上がったが、岡崎が何かを察し叫んだ。

「三人を捕らえろ!」

「えっ……」

 叔父の言葉で手下達が素早く動き、一瞬で梅と岡崎が拘束されてしまう。
 鎖子は咄嗟に、鎖の力を放とうとしたが……!

「鎖子動くな! 二人を殺すぞ!」

 二人を拘束した手下の横に、叔父が立つ。
 その手には注射器が握られていた。
 真っ赤な液体が入っている。

「こいつら人間にとっては……鬼人の血は猛毒……鎖子、お前の血だ。それでこの二人が死ぬぞ……お前が殺すのだ。この二人を……」

 検査と言って、採られた血液だ。
 脅迫方法も外道のなかの外道。

「やめて!」

「鎖子様! お逃げください! おのれ! 梅さんまで人質に取るとは!」

「私のような老いぼれ死んでもいいんですよ! 鎖子お嬢様逃げてください!」

「そんな事できません……!」

 鎖子と要にとって、二人は使用人などではなく親代わりと言ってもいい存在だった。
 二人を見放すことなど、できるわけがない。

「うるさい使用人だな。それでは、見せしめにまずは一人殺そうか」

 叔父の目に、躊躇などない。
 人をいくらでも殺してきた……そんな目だった。

「お願いやめて! 言うことを聞きます……だから、やめてください……二人を解放して!!」

「ガッハッハ! 可愛らしい姫よ! たまらんなぁ! おい! 将暉、鎖子姫を拘束しろ!」

「父さん! 父さん~~ 酷いよぉ! なんで鎖子を俺の花嫁にしてくれないんだよぉ~~!」

 自分に殴りかかってくる愛蘭を突き飛ばして、金剛に投げ渡された手錠を拾う将暉。

「うるさい! バカ息子が!! お前なんぞに誰が渡すものか! 柳善縛家のその醜女(しこめ)と婚姻できるんだ。お前にはそれで十分! 将暉、早く鎖子姫を拘束しろ!」

「あぁあああ、酷いよぉ! 鎖子は俺のなのに! 鎖子ぉお!!」

 岩男のような将暉が、泣きながら鎖子の腕を掴む。

「いやっ」

「いいなぁ、父さん……いいなぁ、父さん……お前を抱けるのか」

 後ろ手で、手錠をキツくかけられた。
 将暉に突き飛ばされた愛蘭は、義母の胸で豚のように泣いている。

 金剛勝時に抱かれる……?
 そうだ、何故……金剛は自ら鎖の儀を受けるつもりなのか……?

 意味がわからないが、そんな事よりも今は二人の命が大事だ。

「もう梅さんと岡崎さんを解放して!! そして貴方は私に近づかないでっ!!」

 鎖子の鎖で将暉の横顔を殴りつけたが、金剛と叔父はそれについて何も言わなかった。

「鎖子。黙って拘束されろ。勝時様との婚儀の時に、二人は解放してやろう」
 
「婚姻なんて、何を考えているのです! そんな事をされるくらいなら私は自害します……っ!!」
 
「ガハハハハハ!! 我が花嫁! 婚儀の時間まで、さぁ静かに眠れ!」
 
「やめてーー!! ……きゃ……あう……」

 鎖子の首元に刺さる針。
 鎖子は自分の身を守るよりも、岡崎と梅の身を案じたため隙をつかれてしまった。

「鎖子お嬢様ーーーっ!!」
 
 すぐに意識が朦朧としてくる……。
 舌を噛み切ろうとしても、力はもう、入らない……。

 梅と岡崎の叫び声が、耳に残って……。

「……か、な……めさ……ま……」

 愛しい人の名を呼んで、意識が途切れた。
 
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