ゆびさきから恋をする
 一瞬見惚れた自分にハッとして、瞬間で思考を振りきった。

「……おつかれ、遅くなったな」

 時計はもう十九時になろうとしていた。いつもの彼女からは考えられないほどの残業だ。

「ちゃんと残業つけろよ?」

「はい」

 俺の命令のような言葉にも笑うから――。


(なんだろう、この気持ちは……)


 考えないようにしたいのに、なぜか襲ってくる名前の付けられない滲むような感情が。それに自分が一番戸惑ってしまう。

「あれ、ちぃちゃんまだ残ってんの?」

 声の方に二人で振り向くと若い社員が実験室に入ってきた。二グループの内田だ。


「お疲れ様です! 久世さん試験! お願いしたいんですけど!」

 意気込んで依頼書を両手で差し出して深々と礼をする。態度で露骨にみせても内容次第だ、紙を受け取って一瞥する。

「……これ、うちにある装置だと<5しかみれないけどやる意味ある?」

「え! でもこの他社との比較で以下でもデータ欲しいんです。お願いします!」

「納期は?」

「……月末……とか?」

「月末ねぇ……」

 諸々考えてると彼女と視線が合ったから思考がまとまった。
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