ゆびさきから恋をする
 しかしこの量を黙々とよくやるな、と振っといてどの口が言うんだと思う俺に彼女が声をかけてくる。

「ちょっと量が多いのと、明日装置の測定が混んでるから早くても明後日の夕方にしか結果出ません」

 彼女はそれでも作業の手を止めない。

(真面目だなぁ)

 むしろ感心してしまうほどだ。

「……了解」

 当たり前だが仕事の話しかしない、それがなにより心地良くて。彼女とする仕事の話は不思議と自分さえ前向きな気持ちになれるみたいで。それはきっと彼女の仕事への姿勢がそうさせるのかもしれないとこの時思った。

「そういえば、有給消化してる? エンジニアリングの方から電話きて消化させるように言われたんだけど」

「……この状況で休みの話とかします?」

「いや、そうなんだけど……思い出したから」

「ふふ……じゃあ落ち着いたらまとめて取ります」

「え、まとめて取られるのはちょっと困るんだけど」

「えぇ? まとめてとり……た、い、っとできた! 完成です!」

 ずらっと並んだフラスコに彼女も満足げに微笑む。

「これであとは測定です。はぁ、疲れた!」

 あはっ、と笑った顔が疲労感を感じさせないほど晴れやかで、仕事への前向きな姿勢が見て取れた。

 その笑顔に瞬間――見惚れる自分がいた。

< 21 / 121 >

この作品をシェア

pagetop