ゆびさきから恋をする
 気づくと、周りは久世さんと一定の距離をとって仕事をし始めていた。

 威圧的、そう言っていたのは二グループの内田(うちだ)くんだったか。


「めちゃめちゃ怖いじゃん、久世さん。ちぃちゃんよくあの人の下で仕事してるよね」

「そんなこと言ったって私にはどうしようもできないし。別に仕事してれば何って言われることないよ。ねぇウッチーそれいつ終わるの?」

「あと十分くらいかな」

(十分か……なんか待ってるには長いな)

 ここで待ってる間にさっきの久世さんの仕事ができる、そう思ってサンプルを持って片付け始める。

「もう行っちゃう? もうすぐ終わるけど」

「時間惜しいしあとでまた来るね、おつかれさま」

 内田くんことウッチーは入社三年目の若手社員。堅い人が多い理系の部署にしてはどちらかというとチャラいタイプ。出会った時から気さくに声をかけてくれるので今ではあだ名で呼びあえる仲にはなっている。

 でも基本は慣れ合わないようにしている。

 社員と派遣、その立場はいろんな人の考え方と見方があるからだ。
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