ゆびさきから恋をする
実験室に戻って言われていた遠心分離機のサンプルを四本取り出す。蓋に書かれたサンプル名をガラスフラスコに書き写して100mlに定容してその液体をジッと見つめながら思う。
(なんなのよ、これは)
これがなんの試験をしてできた溶液で、そもそもなんの依頼なのかもわからない。ただ本当にお手伝いみたいな仕事の振り方をされている。久世さんがわざわざしている仕事ならきっと大事な仕事だろう。だから別に教えてほしい、とまでは言わない。けれどお前が知る必要はないだろう、そう言われている気になる。
基本事務仕事の多い久世さんがたまに自ら実験しているレアなサンプル。本社では品質管理の部署にいたと聞いた。大学で化学を専攻していたので試験は慣れたものだとも聞いた。どれも人づてに聞いたことばかり。私が久世さんと直接くだけた話をすることはない。必要もないはそうだが、そんなに距離を詰めれる間柄でもないだけだ。
(派遣は黙って俺の言う仕事をしとけ、みたいな感じかな)
私と久世さんは派遣とエリート上司、ヒエラルキーの下層と上層にいるような交わることのない雲の上のような人なのだから。
「久世さん」
定時になったので事務所に向かってパソコンと向き合っている上司に声をかけた。
名前を呼んだら顔を上げてくれたが、イケメンにまっすぐ見つめられてたじろぎかけた気持ちをグッと飲み込む。そんな気持ちは当然バレたくないので、なるべく平常心を装って話しかけた。
「先ほどいわれたサンプル定容して実験台に置いてあります」
「ありがと。今日測定してたサンプルの中にBi入ってたよね? 標準液まだ残ってる?」
「残ってます」
「じゃあ同じ濃度域でいいから明日空いた時間に測定かけてもらっていい?」
(……)
「あの」
思わず私は口を挟んでしまった。
(なんなのよ、これは)
これがなんの試験をしてできた溶液で、そもそもなんの依頼なのかもわからない。ただ本当にお手伝いみたいな仕事の振り方をされている。久世さんがわざわざしている仕事ならきっと大事な仕事だろう。だから別に教えてほしい、とまでは言わない。けれどお前が知る必要はないだろう、そう言われている気になる。
基本事務仕事の多い久世さんがたまに自ら実験しているレアなサンプル。本社では品質管理の部署にいたと聞いた。大学で化学を専攻していたので試験は慣れたものだとも聞いた。どれも人づてに聞いたことばかり。私が久世さんと直接くだけた話をすることはない。必要もないはそうだが、そんなに距離を詰めれる間柄でもないだけだ。
(派遣は黙って俺の言う仕事をしとけ、みたいな感じかな)
私と久世さんは派遣とエリート上司、ヒエラルキーの下層と上層にいるような交わることのない雲の上のような人なのだから。
「久世さん」
定時になったので事務所に向かってパソコンと向き合っている上司に声をかけた。
名前を呼んだら顔を上げてくれたが、イケメンにまっすぐ見つめられてたじろぎかけた気持ちをグッと飲み込む。そんな気持ちは当然バレたくないので、なるべく平常心を装って話しかけた。
「先ほどいわれたサンプル定容して実験台に置いてあります」
「ありがと。今日測定してたサンプルの中にBi入ってたよね? 標準液まだ残ってる?」
「残ってます」
「じゃあ同じ濃度域でいいから明日空いた時間に測定かけてもらっていい?」
(……)
「あの」
思わず私は口を挟んでしまった。