ゆびさきから恋をする
 真っ直ぐ見つめてくる久世さんの瞳を見たらわかるのだ。

 私を逃がそうとしない、この状況でさらっと終わる感じが全くしない。でも――。

「……もう……辞めたいと思っただけです」

 言えない。心の奥に眠らせている本音など……言えるわけがない。そして久世さんは当然それを察するのだ。

「言えないってこと?」

「……」

「言いたくないってこと?」

「……」

 どちらもだ。だからこそ何も言えない私に苛立ったように聞いてくる。

「辞めます、はいそうですかとは言えない。納得させて? 俺のこと」

「納得してくれます? 久世さんに……わかるわけないし」

「聞かなきゃわかんないだろ、言え」

 強い口調にムッとした。

「それパワハラですよ」

「言えないのは俺が理由ってこと?」

(そうだよ、久世さんのせいだよ!)

「もうっ……嫌になっただけです! 自分がバカみたいで……勘違いして……もうしんどいっ……」


 認められることがどんなに救われて頑張れるか。

 求められることがどれだけ嬉しくて応えたくなるか。

 全部久世さんが教えてくれた。


「……好きなのに」


 久世さんに見つめられたらもうだめだ。避け続けた瞳に見つめられたらどうにかなる。

 胸に刺さった棘が見つけられない、そこはもう完全に抜け落ちて失くしてしまった。

 ただ今は傷になって塞げないほど大きな痕が付いている。

 そこに、触れてこないで。触れようとしないで。


 触れてほしくないの。
 触れられたくないの、だって……触れられたら自分がどうなるかわからない。


「……仕事……大好きなのに……受け入れられない自分が嫌になる……私が……もう私を受け入れられない……っ!」

 視界が歪んで泣きそうになるのを必死でこらえながら私は気持ちを吐き出した。


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