ゆびさきから恋をする

年下の部下はやっぱり噛みついてくる

「……好きなのに」

 彼女の口からその言葉が零れ落ちて息が止まった。

「……仕事……大好きなのに……受け入れられない自分が嫌になる……私が……もう私を受け入れられない……っ!」


 今にも涙が溢れそうなその潤んだ瞳から視線を逸らせずにいた。俺自身の心臓も無駄に乱れて戸惑ってしまう。

 そこにいきなり殺気だった猫のように彼女が嚙みついてきた。


「あなたのせいだから!」

(俺のせい? どういう意味だよ)


「あなたが……勘違いさせるから! 自分にうぬぼれて……仕事ばっかり……もういや」

「……それって俺が仕事振りすぎたから嫌になったってこと?」

「逆! 仕事したいの! 山ほど仕事もらってうれしかったの!」

 逆切れされた。しかもその言い分がどうしようもないほど可愛いと思ってしまう。

「久世さんがっ……仕事させてくれるから……仕事、いっぱい……私にって言って、振ってくれるから……」

(ちょっと待て。なんなんだよ……こんな……)

 こんな言い分、可愛すぎないか。泣きながら言うのがそんな理由ってあんのかよ。そう思って……。


「だったら! やればいいだろ、もっと仕事! いくらでも振ってやるよ!」

 そう言い返したら大きな瞳から我慢できないように涙が落ちた。

 それをキッカケにぼたぼたと大粒の涙が零れ落ちて、床に染みを作って広げていく。


「どうして……そんな簡単に言うんですか? なんで……久世さんは私にそんなことばっかり言うんですか!」

「仕事ができるからだろ! 出来ないやつに仕事なんか振らないんだよ! 当たり前だろ!」


 だんだん苛ついてきてしまう。彼女が吐き出す言葉に……俺が納得できない!

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