ああ、今日も君が好き。
第一章
前途多難
Side:健
温かい春の日。
時折冷たい風が吹いて、また春がやって来た。
段々と桜の蕾が膨らんで薄桃色の花が咲き綻ぶ。
枝から枝へと移り咲くように次々と花を咲かせて満開の頃、俺達は二年生へと進級した。
「わぁ!ユッキーのお弁当美味しそう!」
「本当だ!見た目も可愛いね!」
「そうかな?ありがとう」
ここは桜凛大学双魚キャンパス内のカフェテリア。
その二階に上がった奥の窓側の席が俺達の……いや、彼女の特等席だ。
お昼時のこの時間帯は大抵ここに集まって昼食を摂ったり、くだらない話をしては次の講義までの時間を潰していた。
「流石ユッキーだね。美人で可愛くて料理上手なんて世の中の男共は放って置かないわけだ」
「そんなことないよ」
「いやいや、そんなことあるんだなー。柴ケンとひろみんもユッキーを見習わなきゃ良いお嫁さんにはなれないぞー」
「え、あたし!?」
「……俺を巻き込むなよ」
そもそも男の俺をどこに嫁がせる気だよ。
「あ、でもこのお弁当は私が作ったわけじゃないの」
「そうなの?じゃあ誰が作ったの?」
「うちには凄い料理上手な子がいてね。私の好きなものとかいっぱい作ってくれるんだ」
「え、誰々?彼氏?もしかして同棲とか!?」
「嘘!?雪緒いつの間に彼氏作ってたの!?」
「ち、違うよ!彼氏とかじゃなくて…っ」
ガールズトークは恋愛話で更に盛り上がる。
一気に注目を集めた彼女は慌てた様子で否定する。
大学内でも“法学部のクイーン”と呼ばれ絶大な人気を集める彼女の浮いた話となれば無理もないが、内心はそれどころではなかった。
「み、見吉さんに、か、かかかれ…っ!?」
「柴ケンどもり過ぎ!キモ!」
「キモイ言うな!ちょっと驚いただけだろうが!」
「落ち着いて柴ケン。雪緒がちゃんと説明するから」
そう言って俺を宥めるのは、法学部の村瀬莉沙。
皆からは村っちょとかリサとか呼ばれている。俺は普通に村瀬さんって呼んでるけど。
村瀬さんは彼女同様容姿に恵まれた女の子で、美人系の彼女とは反対の可愛い系女子。
しかもただ可愛いだけではなく、彼女に引けを取らないほど頭が良く、面倒見も良くて、この面子では唯一のお母さん的存在だ。
「ねぇ、雪緒?」
村瀬さんの鶴の一声で全員の視線が彼女に注がれる。
「だから、その…彼氏じゃなくて、弟なの…」
「………へ?お、弟?」
効果音にするならきょとんって感じだろう。
でもそのくらい拍子抜けしたのだから仕方ない。