黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
覚悟はできているわ。だって私はそのために来たのだもの。
これまで幾度もくり返してきたことを、再び自分に言い聞かせる。
けれど次に聞こえた言葉に私は目をしばたたいた。
「だがそれは公務に限ってだ。俺たちのことは婚姻を結んだのでもう十分だ。これ以上夫婦の真似事は必要ない」
「え?」
一瞬何を言われたのかわからなかった。
夫婦の真似事ってどういうこと?
「今後も閨を共にする気はない。今夜はそれを告げに来ただけだ」
陛下は言いおえるとすぐにきびすを返した。
「お待ちください!」
飛びつくように陛下の背中に手を伸ばす。足がもつれて思いきり前につんのめりった。
「きゃあっ」
陛下の背中にぶつかった私は、子ザルのようにたくましい胴体にくっついたまま固まった。サーっと血の気が引いていく。
やってしまった!
陛下がゆっくり首を回して振り返る。
「誘っているのか」
「ちがっ……」
違うと言いかけてやめた。ここで陛下にいなくなられては、私が王宮に嫁いだ意味がなくなってしまう。
「違いません」
勇気を振り絞ったはいいが、みるみる顔が熱くなっていく。
「その割には震えているようだが」
密着しているせいで手が震えているのが伝わっていたようだ。
「こっ……これは武者震いです」
後に引けなくなって、陛下の腰に回した腕にぎゅっと力を入れる。真っ赤になっているはずの顔を広い背中にうずめたら、頭上から深いため息が降ってきた。
あきれられてしまったわよね……。
何もかもが初めてなのだ。緊張するのは仕方ないとして、どうやるのが正解かなんてわからない。教育係は『陛下にお任せするのです』としか言わなかった。