黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 それにしたってこれはあんまりだわ。

 はしたないと嫌われたら本末転倒だと、腕を解いて陛下から離れようとしたところで、いきなり膝裏からすくうように抱え上げられた。

「きゃあっ!」

 陛下は私の悲鳴などお構いなしに、スタスタとベッドまで行くとそこへ私を下ろした。

「……っ!」

 囲うようにしてたくましい四肢に閉じ込められ、間近にある顔に息をのんだ。金色の瞳は獲物を狙う狼のように鋭い。

「大聖女様のご要望とあらば、応えないわけにはいかないな」

 心臓が破裂しそうなくらいに激しく鳴った。

 恐ろしい。確かにそう感じているのに、その瞳をうつくしいと感じている自分もいる。

 三ヶ月前まで隣国との戦争で総指揮として前線に立っていた彼は、その強さから『軍神』と呼ばれていた。その通り名から熊か鬼のような外見を想像していたけれど、こんなに容姿端麗な男性だとは思わなかった。

「どうした、怖くて声も出ないのか?」
「いえ。陛下が素敵で見惚れておりました」

 素直にそう答えると、陛下が思いきり眉をひそめた。

「ばかを言うな。俺がなんと呼ばれているのか知らないのか?」
「負け知らずの軍神との名声は、聖女宮にまで届いております」

 陛下は「ふっ」と鼻から息を吐く。

「軍神……か。ものは言いようだな。しょせん数多(あまた)の死体の上にある名だ」
「そんな……」

 十年以上にわたる隣国との戦争は、敵国が帝国の領土に攻め入ってきたところから始まった。一時は劣勢となり辺境付近の領土がいくつも奪われていたけれど、陛下が指揮を執るようになってからみるみる巻き返し、三ヶ月前とうとう勝利を収めた。

「陛下は国を守るために戦われただけではありませんか」
「殺したのは相手国の兵だけではない」
「え」

 私が目を見開くと、陛下は自嘲するように口元を歪めた。

「俺の周りの者は皆不幸になる。おまえも不幸になりたくなければ俺に関わるな」
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