黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 月光露が!

「放して!」

 両手両足をばたつかせる。「うるさい黙れ!」と口を手でふさがれ、ベッドにあおむけに押さえつけられた。

「んんんーっ」

 必死に顔を左右に振るがビクともしない。

「ガキがいるなんて聞いないぞ、おい」

 私を押さえつけている男の声に、離れたところから別の男の声がする。

「知るか。俺は大聖女をさらってこいと言われただけだ」

 大聖女をさらう⁉ この人達は私を誘拐しようとしていること⁉

 もしかしたら私に毒を盛った人物とかかわりがあるのかもしれない。何か手がかりがつかめるかもと、息をひそめてじっと耳をそばだてたが――。

「めんどくせえな。()っちまうか」

 視界の端にきらりと白く光る刃が見えた。一瞬で血の気が引く。
 
 いや! 助けて……陛下!

 声にならない悲鳴を心の中で上げて目をギュッと閉じた。

「ちょっと待て」

 その声に、今にも振り下ろされようとしていたナイフが止まった。

「そんなことをしている場合はない。とっとと大聖女を連れていかなければ時間に間に合わなくなる」

 チッと舌打ちが聞こえる。

「仕方ねえな、ガキも連れていくか。見た目は悪くねえから高く売れるかもしんねえしな」

 高く売る⁉ 冗談じゃないわ!

 口を塞いでいる手に思い切りガブリとかみついた。

「痛っ! ……このガキがあ!」

 男の怒鳴り声とほぼ同時に、頬に衝撃が来た。目の前にチカチカと火花のように星が弾け、吹き飛ばされて床で全身を強打した。息が苦しくて視界がぼやける。

「ばか野郎! 物音を立てたら警備に気づかれるだろうが。とっととずらかるぞ」

 遠くでそう聞こえたのを最後に、プツンと意識が切れた。





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