最期の晩餐
「でも、やりがいある仕事だと思いますけどね」

 ホスピスで働いたこともないくせに、知ったかぶって相槌をしてみると、

「そう‼ めっちゃやりがいある‼ だから、奈々未もウチのホスピスで一緒に働こうよ‼ 今、信じられないほどに人手不足なの‼」

 美知さんが食事の手を止め、両手で私の手を握った。

「イヤイヤイヤイヤイヤ……」

 椅子を後ろに引きながら後ずさり。確かに酒など飲まなくて正解だった。酒なんか飲んで、気が大きくなって「はいはーい。了解でーす」なんて安易に返事してしまったら大変なことになっていたわ。危ない危ない。

 美知さんの仕事に興味がないかと言われればそうではないが、今の仕事に苦を感じていないのに、転職する気になれない。ここは断っておいた方が良いだろう。なのに、

「お願いお願い‼ 私、奈々未の頼み事、いっぱい聞いてきたよね⁉ 今度は奈々未が助けてよ‼」

 両手を合わせて懇願してくる美知さん。

 確かに美知さんには滅茶苦茶お世話になっている。大学時代、幾度となく試験プリをもらったし、今付き合っている彼氏も美知さんの紹介だ。

「……えぇー」

 
 断れなかった。こうして私は、美知さんが働いているホスピスに転職することになった。
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