最期の晩餐
「うん。美味しいよ。美味しいけど……」

 箸を止め、小鉢を見つめる楠木さん。

「やっぱ、おばあちゃんには敵わないかぁ」

 箸の進まない楠木さんに、苦笑いするしかない。

「イヤ、遜色ない。ただ、私……もうダメかもしれない」

 急に湿気を帯びた涙声になった楠木さんに、

「……え?」

 苦笑いのまま顔が固まってしまった。

「……トロトロになった里芋を飲み込むのが精いっぱいだった。一般食はもう、無理かもしれない」

 泣きだしそうな顔で唇を噛む楠木さん。

「明日からの食事は、医師と相談してからになるから今は何とも言えないけど、例えミキサー食になっても、ゼリー食になろうとも、めっちゃ美味しく作るから‼ ウチには林田さんっていう、物凄く腕がいい料理長がいるからね‼」

 楠木さんに釣られて泣きそうになるのを必死で堪え、根性で笑顔を作る。涙など見せてはいけない。患者さんに悲しい想いをさせてはならない。不安にさせたり同情なんかしてはならない。患者さんには穏やかな気持ちで過ごして欲しいから。

「めっちゃ美味しく作るの、ななみんじゃないんかい」

 楠木さんが「フッ」と小さく笑った瞬間、目から涙を零した。
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