時の足跡
すると、わたしはある事を思い出した。
この背中を撫でてくれる、このぬくもり、、、
覚えがある。
わたしは中学一年生の時に両親を事故で亡くしており、兄弟が居ないわたしはひとりぼっちになった。
本当は寂しくて、お父さんお母さんに会いたくて、夜も眠れなかった。
けど、周りの人たちに心配をかけるのが嫌で、出来るだけ普通に過ごしていた。
しかし国語の授業の時、家族の話が出た。
周りがそれぞれお父さん、お母さんの話をする中、、、わたしは、両親の話を口にする事が出来なかった。
口に出してしまったら、涙が出てきてしまいそうだから。
「先生、すいません。お手洗いに行って来ます。」
わたしはそう言って席を立ち、教室を出た。
最初は廊下を歩いていたが、次第に涙が込み上げてきて、わたしは走って屋上へと向かった。
屋上から見る空はわたしの気持ちとは裏腹に、真っ青な雲一つない綺麗な青空で、わたしは金網に手を付きながらしゃがみ込んで泣いた。
ずっと我慢していた涙。
両親のお葬式の時、周りの親戚から同情の声は聞こえてきたが、声を掛けてくれる人も居なければ、わたしを誰が引き取るのか押し付け合うような言葉も聞こえてきて、わたしは素直に泣くことが出来なかったのだ。
すると、わたしの背中に温かい手のひらが触れ、わたしは驚いて顔を上げ振り向いた。
そこに居たのは、同じクラスの辻󠄀元爽也だった。
「泣いていいよ。落ち着くまで、俺がここに居るから。」
そう言って、辻󠄀元くんはわたしの背中を撫でてくれた。
わたしはその言葉に唇を噛むと、それほど話したこともない彼の前で、恥ずかしげもなく大泣きした。
あの時、嬉しかった。
一人になり隙間だらけになって寂しかった心が、少しだけ救われた気がした。
あの時の手のひらの温かさは今でも忘れることが出来ない。
今、わたしの背中を撫でてくれている、この大きな手のひら、、、
あの時の手のひらよりも大きいけれど、優しさ、ぬくもりが一緒だった。