【ピュア青春BL】幼なじみの君と、ずっとミニトマトを育てたい。
――僕との思い出が大事?
きゅうりの事件では酷いことを言ってしまって、あの日以来気まずくて、嫌われたと思っていたのに。
「律くん、僕も律くんとの思い出は大切だよ。あの時、嫌いってひどいこと言っちゃったけど律くんのことは一度も嫌いになったことはなかった。言ったこと、毎日後悔してた。本当にずっと、また仲良くしたいと思ってた」
律くんの言葉を聞くとあらためて僕の思いを伝えたくなった。この想いは何度でも伝えたい。言葉が溢れ出すと、再び涙も溢れそうになる。目が熱くなり、視界がぼやける。涙がこぼれないように、ぎゅっと唇を噛む。律くんは静かに僕の話を聞き、じっと僕を見つめてくれていた。
「由希くん、何回も泣かせてしまって、本当にごめん。俺も本当に嫌われたと思っていて、話しかけられなかった。俺もずっと、本当に、こうやって話したかった」
律くんの声も少し震えている。いつもクールで無表情な律くんが、こんなふうに本音を話してくれるなんて。心の奥にずっとあった黒いモヤモヤが、ゆっくりとほどけて溶けて、消えていく気がする。
僕はいちごミルクのパックを握りしめ、勇気を振り絞って口を開いた。
「律くん、あの箱……じっくり見ても、いい?」
律くんは小さく頷き、クローゼットの方に視線をやった。僕はそっと立ち上がり、箱の前にしゃがむ。白い箱は、小さな傷や色あせた部分があるけれども、律くんが大切に保管していたことが伝わってくる。
――本当に、懐かしい。
僕が小学二年生の時に作った、ちょっと不格好なうさぎのフェルトのぬいぐるみ。これは初めて手芸に挑戦した時に、一番好きな人にあげたいと気合いを入れて縫ったものだ。律くんに「これ、律くんのために頑張って作ったからあげるね」って渡した時、律くんが珍しく照れながら、でも嬉しそうに「大事にするよ」って言ってくれたっけ。律くんの似顔絵を描いた画用紙もある。当時は交換日記もしていて、僕の丸っこい字と律くんの几帳面な字が並んでいる。昔書いた手紙も、こないだ書いたばかりの手紙もこの中に入れてくれている。
そして、枯れたきゅうりの葉が挟まれた、しおり?
「これは?」
この箱の中にあるのは全て僕に関係のあるものだよね?
「……これは、俺が抜いてしまった、由希くんのきゅうりの葉」
「こんなものも、とっておいたの?」
あの日の記憶が、再び鮮明によみがえる。捨てられたものだと思っていたけれど……。
「僕たちが気まずくなった後に、こうやってしおりに?」
「うん、由希くんが大切にしていたものだから捨てられなくて」
「これもあれも、全部、取っといてくれたんだ? もう何も残っていないのかと思っていたよ」
声が震える。律くんがこんなに僕との思い出を大切にしてくれていたなんて、知らなかった。涙がぽろっと頬を伝う。慌てて袖で拭うけど、どんどん勝手に涙が流れてくる。
律くんは箱ティッシュを持ってきて、静かに近づいてきた。そして僕の隣に座り、涙を拭いてくれた。
「由希くんとの思い出は本当に大切で。由希くんも大切で……気持ちが離れてしまってからも、由希くんの隣に、いつもいたいと思っていた。もっと話をしたかった――」
律くんの言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。顔を上げると、律くんの目も少し赤くなっている。こんな律くんは初めて見た。クールで、いつも遠くにいると思っていた律くんが、こんな近くで、こんなふうに僕を見てくれるなんて。
「律くん……僕も、律くんとまた、昔みたいに仲良くしたい」
言葉を絞り出すと、律くんは柔らかい笑顔を見せてくれた。心臓がドキドキして、顔が熱くなるけど、目をそらさなかった。律くんも、じっと僕を見つめる。
「じゃあ、これから、また仲良くしよう」
律くんの提案に、僕は大きく頷いた。
「うん! 仲良くしたい。そして、畑も……ミニトマトも、きゅうりも、アリッサムも、ビオラも、ペチュニアも……一緒に育てたい! 夏になったらふたりでトマトを収穫して、一緒に食べるんだ!」
興奮して早口になると律くんは、ははっと声を出して笑った。こんなに律くんが笑うのは久しぶりだ。心がふわっと軽くなる。僕も一緒にふふっと笑った。
「由希くんのこと、抱きしめたい。抱きしめていい?」
「うん」
律くんは「なんか照れる」と言いながら、僕を優しく抱きしめてくれた。苗に囲まれている時よりも土をいじっている時よりも、小説を読んでいる時よりももっと僕の全てが、浄化される。
「律くんと仲直り出来て、嬉しい」
「俺も」
部屋の中に差し込む明るい光が僕たちを優しく包みこみ、キラキラと輝いていた。まるで僕たちを祝福してくれるみたいに。
本当は野菜や花を育てるだけではなく、小説の話もしたいし、また一緒に遊びたい。でも、これ以上仲良くなりたいなんて欲張りはしないから、もう喧嘩をして離れるなんてことはしたくない。
どうかこれからはずっと、律くんと気まずくならないように、いられますように――。
きゅうりの事件では酷いことを言ってしまって、あの日以来気まずくて、嫌われたと思っていたのに。
「律くん、僕も律くんとの思い出は大切だよ。あの時、嫌いってひどいこと言っちゃったけど律くんのことは一度も嫌いになったことはなかった。言ったこと、毎日後悔してた。本当にずっと、また仲良くしたいと思ってた」
律くんの言葉を聞くとあらためて僕の思いを伝えたくなった。この想いは何度でも伝えたい。言葉が溢れ出すと、再び涙も溢れそうになる。目が熱くなり、視界がぼやける。涙がこぼれないように、ぎゅっと唇を噛む。律くんは静かに僕の話を聞き、じっと僕を見つめてくれていた。
「由希くん、何回も泣かせてしまって、本当にごめん。俺も本当に嫌われたと思っていて、話しかけられなかった。俺もずっと、本当に、こうやって話したかった」
律くんの声も少し震えている。いつもクールで無表情な律くんが、こんなふうに本音を話してくれるなんて。心の奥にずっとあった黒いモヤモヤが、ゆっくりとほどけて溶けて、消えていく気がする。
僕はいちごミルクのパックを握りしめ、勇気を振り絞って口を開いた。
「律くん、あの箱……じっくり見ても、いい?」
律くんは小さく頷き、クローゼットの方に視線をやった。僕はそっと立ち上がり、箱の前にしゃがむ。白い箱は、小さな傷や色あせた部分があるけれども、律くんが大切に保管していたことが伝わってくる。
――本当に、懐かしい。
僕が小学二年生の時に作った、ちょっと不格好なうさぎのフェルトのぬいぐるみ。これは初めて手芸に挑戦した時に、一番好きな人にあげたいと気合いを入れて縫ったものだ。律くんに「これ、律くんのために頑張って作ったからあげるね」って渡した時、律くんが珍しく照れながら、でも嬉しそうに「大事にするよ」って言ってくれたっけ。律くんの似顔絵を描いた画用紙もある。当時は交換日記もしていて、僕の丸っこい字と律くんの几帳面な字が並んでいる。昔書いた手紙も、こないだ書いたばかりの手紙もこの中に入れてくれている。
そして、枯れたきゅうりの葉が挟まれた、しおり?
「これは?」
この箱の中にあるのは全て僕に関係のあるものだよね?
「……これは、俺が抜いてしまった、由希くんのきゅうりの葉」
「こんなものも、とっておいたの?」
あの日の記憶が、再び鮮明によみがえる。捨てられたものだと思っていたけれど……。
「僕たちが気まずくなった後に、こうやってしおりに?」
「うん、由希くんが大切にしていたものだから捨てられなくて」
「これもあれも、全部、取っといてくれたんだ? もう何も残っていないのかと思っていたよ」
声が震える。律くんがこんなに僕との思い出を大切にしてくれていたなんて、知らなかった。涙がぽろっと頬を伝う。慌てて袖で拭うけど、どんどん勝手に涙が流れてくる。
律くんは箱ティッシュを持ってきて、静かに近づいてきた。そして僕の隣に座り、涙を拭いてくれた。
「由希くんとの思い出は本当に大切で。由希くんも大切で……気持ちが離れてしまってからも、由希くんの隣に、いつもいたいと思っていた。もっと話をしたかった――」
律くんの言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。顔を上げると、律くんの目も少し赤くなっている。こんな律くんは初めて見た。クールで、いつも遠くにいると思っていた律くんが、こんな近くで、こんなふうに僕を見てくれるなんて。
「律くん……僕も、律くんとまた、昔みたいに仲良くしたい」
言葉を絞り出すと、律くんは柔らかい笑顔を見せてくれた。心臓がドキドキして、顔が熱くなるけど、目をそらさなかった。律くんも、じっと僕を見つめる。
「じゃあ、これから、また仲良くしよう」
律くんの提案に、僕は大きく頷いた。
「うん! 仲良くしたい。そして、畑も……ミニトマトも、きゅうりも、アリッサムも、ビオラも、ペチュニアも……一緒に育てたい! 夏になったらふたりでトマトを収穫して、一緒に食べるんだ!」
興奮して早口になると律くんは、ははっと声を出して笑った。こんなに律くんが笑うのは久しぶりだ。心がふわっと軽くなる。僕も一緒にふふっと笑った。
「由希くんのこと、抱きしめたい。抱きしめていい?」
「うん」
律くんは「なんか照れる」と言いながら、僕を優しく抱きしめてくれた。苗に囲まれている時よりも土をいじっている時よりも、小説を読んでいる時よりももっと僕の全てが、浄化される。
「律くんと仲直り出来て、嬉しい」
「俺も」
部屋の中に差し込む明るい光が僕たちを優しく包みこみ、キラキラと輝いていた。まるで僕たちを祝福してくれるみたいに。
本当は野菜や花を育てるだけではなく、小説の話もしたいし、また一緒に遊びたい。でも、これ以上仲良くなりたいなんて欲張りはしないから、もう喧嘩をして離れるなんてことはしたくない。
どうかこれからはずっと、律くんと気まずくならないように、いられますように――。