チャラい社長は私が教育して差し上げます!
私は、一瞬だけ陶酔しかけたものの、すぐ我に返り、

「やめてください!」

と言って立ち上がった。
あとほんの数センチで、本当にキスされるところだった。陶酔しかけたのだから、キスするところだった、と言うべきかもだけど。


「セクハラで訴えられても、いいんですか?」

私は社長をキッと睨み、そう言ったのだけど、社長は立ち上がり、両手で私の肩を掴んだ。

「好きにしなよ。俺は構わないから」

「もしそうなったら、社長のキャリアに傷が付きますよ。それでもいいんですか?」

「だから、構わないと言ってるだろ?」

普通、男性社員は女性社員からセクハラで訴えられる事を、極度に恐れている。ちょうど、電車で痴漢容疑を掛けられるみたいに。どちらも容疑を晴らすのは難しいから。

それなのに、社長にはその警告が通じないらしい。余程、自分の権力に自信があるのだろうか。

再び社長の顔が私の顔に近付いて来て、私は破れかぶれで言ってしまった。

「同棲してる恋人がいるので、やめてください」と。

すると社長はピタッと動きを止め、

「それならそうと、早く言えよ」

と言い、ソファに座ってコーヒーに砂糖を入れ始めた。

私は、ホッとするのと同時に、少しの罪悪感を覚えていた。
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