チャラい社長は私が教育して差し上げます!

「今、試作車はガス欠のためエンジンは始動しないっす」

横の社長が、アラレちゃんの運転席に座ったテストドラバーさんに手で合図を送り、ドライバーさんがスターターを回しても、キュキュキュキュっと音がするだけでエンジンは掛からない。

「このブランデーを試作車に給油するっす」

斯波さんは、アラレちゃんの燃料タンクの蓋を開け、ブランデーを給油して蓋を締めた。

再び社長がドライバーさんに合図を送ると、キュキュキュキュキュキュキュキュっと長かったものの、ブオンとエンジンが掛かった。その時、横で社長が小さく「おお!」と言った。

今の社長の声は、動画に入ったかもしれない。後で社長に文句を言わなくちゃ。

社長がドライバーさんに合図を送ると、キキッとタイヤを軋ませ、アラレちゃんは見事に走り出し、私はその姿をスマホで追って撮影終了。

次は締めのシーンだ。
榊さんと斯波さんに並んで立ってもらい、強面の榊さんとユニークな斯波さんの顔をアップにして撮影再開。台詞は榊さんだ。

「触媒の性能を上げ、テストに十分な超合金を仕入れる事が出来れば、我々は近い将来、廃油でのエンジン始動を可能にしてみせます」

以上で撮影は完了した。ふうー。

私は、呑気に手をパチパチ叩いてる社長を、キッと睨んだ。文句を言うために。

「社長ったら、『おお!』とか言うから、動画に入ったかもしれないじゃない!」

「それぐらい、いいだろ?」

「そうかもだけど、何で『おお!』って言ったの?」

「感動したからさ」
「なんで感動したの? テストは十分したんでしょ?」

「もちろんしたけど、成功率は70パーセントで、ガス欠からは初めてだからさ。1回で成功するとは思わなかったんだ」

「そうなの? そんな事で大丈夫なの?」

「たぶん」

なんか心配になってきた。本当にうまく行くのかなあ。
< 89 / 104 >

この作品をシェア

pagetop