社員総会から始まる物語-サプライズ企画で出会った彼は、人気スター

第八話 「再出発」

 土曜日の昼前。約束した時刻。

 優香は、和希の住む高層マンションのエントランス前に立った。
 受付の前を静かに通り抜け、セキュリティゲートの手前で立ち止まる。

 テンキーに和希の部屋番号を入力すると、
「ピッ」という電子音とともに、オートロックのドアが静かに開き、優香は中に入った。

 エレベーターに乗り込み、部屋番号に対応してロック解除された最上階のボタンを押す。

 ドアが静かに閉まり、エレベーターが上昇を始める。

 やがて最上階に到着し、廊下を進んで、和希の部屋の前に立つ。
 インターフォンを押すと、すぐに声が返ってきた。

「開いてるよ。どうぞ」

 ドアを開けると、変わらぬ空間がそこにあった。

 優香は、緊張したまま、手に持った紙袋を差し出した。
「これ、今朝パン屋で買ってきました。人気なんです。和希さん好きそうだったから」
「ありがとう。来てくれて嬉しいよ」

 リビングに通されると、和希はそっとマグカップを差し出してくれた。

「ホットミルク、好きだったよね?」

 優香は、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 マグカップを両手で抱えたまま、優香は静かに言った。

「……あのとき、あなたの言葉に応えられなかったのは、怖かったからです。
和希さんを想うって言いながら、本当は、自分を守ることしか考えてなかった」

 視線を下げたまま、言葉を続ける。

「でも今は、違います。怖くても不安があっても、あなたとなら一緒に乗り越えられます」

 顔を上げると、和希が見つめていた。

「俺は変わってないよ。
 優香が戻ってくれるなら、それだけでいい」
 そっと手が伸び、優香の頬に触れた。

「もう一度やり直そう」
「はい」

 和希は、優香のそばに来て、そっと抱きしめた。
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