ぶどうジュースと夏の誓い
「ねえ。伊月はさ」
「うん!」
「そんな、気合い入れなくていいから、さ」
「うん……」
「俺たち、ただの同級生なんかじゃない、よな? もう、こうやって手まで繋いじゃって、さ」
「だって、それは速水さん……朔くんが手を出したから」
朔くんは「そうかっ」と笑って、頭上を見上げてる。
「今日って仏滅で、なおかつ、ほぼ新月なんだ。俺の名前のとおりの空だよね」
朔。そう。それは、月のない晩のこと。
「でも、朔くんは、わたしには満月なんだよ」
わたしはあらぬ言葉を口走ってしまう。緊張しすぎてる!
「数学のプリントに丸、描いてたもんね。俺のこと見ながらさ」
朔くんに言われて驚いてしまう。見られてた? あの丸を。
何の気無しの落書きだった。それなのに。
「なんでかな。俺にはあれの意味、ちゃんとわかったよ。俺を見て、『満月』だって思ってくれてたんだよね」
朔くんの鋭い指摘にわたしは返す言葉なんてない。
「次の満月ならさ、伊月に告白できるかな」
「満月あたりに、わたし、誕生日なんだ! 8月14日なの!」
わたしは要らぬ情報を、朔くんに渡してしまう。
「じゃあ、その日絶対空けときなよ。兄貴とだって予定入れるなよ! 俺、そろそろ戻らないと。じゃあな。伊月」
朔くんはさわやかに手を振ると、中庭から逃げるように去っていってしまった。
中庭に残されたわたしは、ほおっと深いため息をついた。
緊張したよ。人生で一番、緊張したよ。
なになになに? 何がおきたの?
「誕生日、空けとくからね。朔くん」
小さな声で、今更の返事をした。