タイプではありませんが


 ぐるぐるしている楓に本当に手がかかると呟いた星野は宣言する。
「俺、いつまでも待たないし。これがラストチャンス」
 あっ、退路絶たれた。もう逃げられない。
「めっちゃ惚れとるけん。俺の彼女になって」
 顔で、声で、全身で好きだと訴えてくる。

 私の負け、だ。
 もう気持ちに嘘はつけない。
 楓はコクンと頷いた。

「それだけかぁ。まぁ、今日のところはこれで我慢する」
 言葉はあっさりしているのに、端々に隠しきれない喜びを滲ませる星野に楓はどことなく納得がいかない。


「タイプじゃないもん」
 小声で付け足した言葉は、ちゃんと星野の耳に届いたようだ。
「うん、知ってる」
 動揺しない星野になんとかぎゃふんと言わせたい。

 もうヤケクソだ!

 楓は星野の手を握った。
 まさか、というように驚いた星野は、次の瞬間楓よりも強い力で握り返す。
 星野はいつもの営業スマイルじゃなくて、特別の人にだけみせるとびっきりの顔で笑いかけた。
「好きだよ、楓」
 そっとささやく星野の声はもう同期のものじゃなくて。
 会社では絶対聞けない、恋人に向ける甘い甘いもの。

 きっとこの先、どんどん星野にハマっていくのだろう。
 タイプじゃないのに。
 ううん、違う。
 楓は星野に向き合って会心の一撃を繰り出した。

「タイプじゃないけど……すごく好き」
 今の精一杯。

 この言葉を受けたときの星野の顔を、楓は一生忘れないだろう。

 (fin)
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