タイプではありませんが


 ぐるぐるしている楓に本当に手がかかると呟いた星野は宣言する。
「俺、いつまでも待たないし。これがラストチャンス」
 あっ、退路絶たれた。もう逃げられない。
「めっちゃ惚れとるけん。俺の彼女になって」
 顔で、声で、全身で好きだと訴えてくる。

 私の負け、だ。
 もう気持ちに嘘はつけない。
 楓はコクンと頷いた。

「それだけかぁ。まぁ、今日のところはこれで我慢する」
 言葉はあっさりしているのに、端々に隠しきれない喜びを滲ませる星野に楓はどことなく納得がいかない。


「タイプじゃないもん」
 小声で付け足した言葉は、ちゃんと星野の耳に届いたようだ。
「うん、知ってる」
 動揺しない星野になんとかぎゃふんと言わせたい。

 もうヤケクソだ!

 楓は星野の手を握った。
 まさか、というように驚いた星野は、次の瞬間楓よりも強い力で握り返す。
 星野はいつもの営業スマイルじゃなくて、特別の人にだけみせるとびっきりの顔で笑いかけた。
「好きだよ、楓」
 そっとささやく星野の声はもう同期のものじゃなくて。
 会社では絶対聞けない、恋人に向ける甘い甘いもの。

 きっとこの先、どんどん星野にハマっていくのだろう。
 タイプじゃないのに。
 ううん、違う。
 楓は星野に向き合って会心の一撃を繰り出した。

「タイプじゃないけど……すごく好き」
 今の精一杯。

 この言葉を受けたときの星野の顔を、楓は一生忘れないだろう。

 (fin)
< 166 / 166 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

あなたのほくろには、沼りません!

総文字数/8,237

恋愛(オフィスラブ)12ページ

超短編!フェチから始まる溺愛コンテストエントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
もう恋愛では失敗しない。 高梨 澄花(たかなし すみか)は決意していた。 初恋のアニメキャラに泣きぼくろがあったことから、好みの男性へのこだわりが強く刻まれた澄花。 アニメキャラを卒業して、リアルな彼氏が出来た後も澄花は泣きぼくろの男性に散々泣かされてきた。 人相学的には、泣きぼくろは浮気性らしい。たまたま澄花が付き合ってきた彼氏は、それを体現する男たちであった。 27歳の澄花は、そろそろ結婚を考える年齢に差し掛かってきていた。 もう外見の好みを優先して、中身を全く見ずに付き合うことはしない。 そう固く心に決めていたのに。 いつも銀縁メガネをかけている、営業課エース・岸本 崇人(きしもと たかと)の目尻に泣きぼくろを見た瞬間。 澄花の胸は、高鳴ってしまった。 けど、大丈夫。 崇人は「社内恋愛はしない」と公言しているのだから。 そう、公言しているはず……。 なのに。 泣きぼくろフェチ女×ハスキーボイスフェチ男の恋の始まりのストーリー。
表紙を見る 表紙を閉じる
え? なんで突然プロポーズ!? 福田あかり、28歳。 兄2人と弟1人の男所帯で育ったあかりは、祖父、父、長兄の後を追って高校卒業後、警察官になっていた。 職場の同僚で警部補になったばかりの山科颯と別れたばかりのあかりに突然プロポーズをしたのは、3歳年下の幼馴染、藤井理貴だった。 弟のような存在である理貴のプロポーズを無碍に断ったあかりだが、幼馴染として会おうという彼の提案を断りきれないでいた。 そのうちフェードアウトするだろうと思っていたあかりに、颯から連絡が入る。一度は無視をしていたが、上司である早野経由でも連絡を取ってくる颯にしぶしぶ会ったあかりに、彼はこう言ったのだった。 「結婚……しないか」 元カレ、颯の想いを断ち切れないまま、幼馴染と恋人候補を巧みに使い分ける理貴にあかりの天秤はどんどんと傾いていくのだった。 大人の三角関係のお話です。 9:00と21:00に更新する予定です。 福田あかり(28)   × 藤井理貴(25) 山科颯(30)
桃ちゃんセンセと田宮くん

総文字数/17,423

恋愛(純愛)31ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
中峯 桃(29)   × 田宮 碧(25) 外資系の企業で人事として働く桃は、リクルートのため、ある大学に訪れていた。 そこで7年ぶりに再会したのは、かつてチューターとしてアルバイトしていた塾に通っていた田宮碧だった。 彼と再会したことで桃は、封印していた恋を思い出したのだった。 かつては先生と生徒ということもあり成就しなかった恋。 社会人として再会した2人の恋のはじまりのお話です。 前半は桃side、後半は碧sideのお話になります。 【ご留意点】 大学入試の話があります。2021年度からは大学入学共通テストとなっていますが、時系列の関係上、物語では旧名称のセンター試験を使用しています。 ストーリーの中で 金子みすゞ著『私と小鳥と鈴と』 の一節を引用しています。 また、上記の翻訳には、Google翻訳を参考に一部作者の英訳を含んでいます。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop