海に凪ぐ、君の名前
数日経った日。

俺は学校で、陽太と話しながらスマホの画面を見つめていた。

検索アプリをタップして、ネットニュースのランキングに指を滑らせる。

その画面を見て、自然と口の端が持ち上がる。

(予想通りだ)

すると、父さんからの連絡をきた。

画面の上のほうに、《頼まれたことはやっておいた》と端的なメッセージが映る。

父さんらしい無駄のないメッセージだ。

「なに?モデルの仕事?」

隣でパンをかじっていた陽太が、俺のスマホを覗き込む。

「モデルになる気なんてないって何回も言ってるだろ」

俺は画面を閉じて、机にスマホを置いた。

陽太は「冗談だってー」と笑った。

俺は窓の外に視線を投げる。

俺のしたことが彼女のためになるのか分からない。

迷惑になるのかもしれない。

でも、俺なりに少しだけ彼女の荷を軽くしてあげたい。

グラウンドでは、部活の連中が声を上げている。いつもと変わらない昼休みだ。

すると、ポケットの中のスマホが、もう一度震えた。

知らないアカウントからのメッセージ。

(このアプリ…確か、想良の炎上騒ぎの時に入れたんだっけ)

久しぶりにアイコンをタップする。

メッセージチャットを押すと、《Sora__hamada》と書かれたアカウントからなにかメッセージが届いたらしい。

メッセージを開く前に、アカウント名を検索してプロフィールを開く。

見覚えのある顔がズラリと並んでいる。

(いや、これ明らかに想良だろ)

そして、またチャットのページを開き、彼女のメッセージをタップする。

《どういうつもり。今日、あの堤防に来て》

余計な言葉のないメッセージで送ってくるのが想良らしい。

父さんみたいだ。ふふっと笑ってしまう。

「…おい、何笑ってんの」

陽太が怪訝そうに俺の顔を覗き込む。

「いや、なんでもない」

俺はスマホの画面をロックして、ポケットにしまった。

けれど、胸の奥が少しだけざわつく。

(想良も気づいたか)

まあ、当然だろう。

あれだけニュースが回れば、誰だって気づく。

窓の外から、春の風が教室に吹き込んできた。
グラウンドの歓声が、やけに遠く聞こえる。

陽太がパンの袋をくしゃっと丸めながら言った。

「なあ、午後の授業サボってどっか行く顔してるぞ」

俺は苦笑した。

「え、そんな顔してた?」

「うん」

即答だった。

俺は椅子から立ち上がり、鞄を肩にかける。

「じゃ、ちょっと用事」

「おいおい、まじ?」

陽太は呆れた顔をしながらも、ニヤッと笑った。

「…想良ちゃん?」

「んーまあ」

「ま、次の授業は、俺が何とか言っとくよ」

そう言って、陽太は手を振る。

ありがとうと小さく言って、教室を飛び出した。廊下に出ると、昼休みのざわめきが広がる。

それをかき分けるように足を進めた。

スマホを取り出して、もう一度メッセージを見る。

《今日、あの堤防に来て》

——あの堤防。

いつも想良と二人で座った場所。

潮の匂いと、波の音と、彼女の泣きそうな顔を思い出す。

俺は階段を降りながら、彼女に短く返信を打つ。

《分かった。放課後、行く》

送信ボタンを押した瞬間、胸の奥が、少しだけ重くなった。

——きっと怒ってる。

でも、それでもいい。

もし少しでも、彼女の背負ってるものが軽くなるなら。

俺はポケットにスマホをしまって、校門へ向かった。

夕方、あの堤防で。

想良と、もう一度会うために。
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