海に凪ぐ、君の名前
Spin-off

浜の海

映画のワンシーンを撮影するためにたまたま来た港町。

この街はあまり好きじゃない。

窓際の椅子に腰掛けて、肘を着く。

どこを見たって、海だらけ。

嫌味?

ホテルの窓辺でぼんやりと思う。

羽美。

小さく胸の中で響く。

海みたいに綺麗な子になってほしい、とつけられた名前。

(私と同じだなんて、可哀想)

海の表面を撫でるように見る。

こんな綺麗な心なんか持ってない。

太陽より月の方が好きだし、桜が咲いても「花粉が嫌だな」と悲観的だし。

それを隠すために、人に見られるための顔を作って、みんなに好かれようと上書きする。

それが、想良。

でも、最近は、それが上手くいかない。綺麗な白で上書きしても、真っ黒な私は消えないままのような気になる。

それでも確実に黒の私ではなくなる訳で。

本当の私は、どこにいるんだろうって思う。

ただ、ぼーっとしていた。

そのとき、視界の端で、誰かが走っているのが見えた。

猛スピードで、まっすぐ強く前だけ見て。

(何してんのこの人)

この人は、私の世界に急に飛び込んできた。

そして、その人影は次の瞬間、盛大に転んだ。

『っ…え!?』

思わず声が出て、立ちあがる。

気がついたら、戸を引いて飛び出していた。
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