海に凪ぐ、君の名前
「君、今日の花火みるの?」
「花火?」
「今日、えーっと…あっ、ちょうどあの辺かな?あの辺で、夏祭りがあるんだって」
彼女の指は空を泳いでから、もう使われていないような閑散とした遠くの港を指した。
祭り、ねぇ?
「クライマックスに花火が、ばーって打ち上げられるんだってさ。毎年すごいらしいよ。みる?」
花火、ねぇ?
「いや、見ないと思うけど。花火なんか興味ないし」
花火にはあんまり興味が無い。ただの火薬の爆発と炎色反応でしかないと思ってしまう。
そんなものを、なぜ人混みに出向いてまでみるのか。それのどこに風情だとか感動だとか生まれるのか、わからない。
俺にはそんな和の美しい感性を持ち合わせていない。
「えー、もったいないな。人生つまんなそ」
そう言って彼女は海に向かってそっぽ向いた。
「余計なお世話だ」
「毎年、夏にしか見れないのに。…ね、私今日ここで見るから、君も来なよ」
彼女はもう一度こっち顔を向け、にっこりと笑う。
「あー、うん」
「聞いてないでしょ!」
俺の適当な相槌にビシッと人差し指を立てた。
「気分が乗ったら来るよ」
「あー来ないやつだ」
うるさいうるさいと適当に相槌をうっていたらすっかり拗ねてしまったようで、視界の端に映る彼女は、腕を組んで頬を膨らませていた。
「私、今日はもう帰るね!」
「あそう」
「またね、くらい言いなさいよ」
「おう」
もう!と小さく声を上げて彼女は身を翻して行った。
少し、冷たく接しすぎただろうか。
海だけを見つめていた目を、気になって彼女の背中へ振り向けた。
その小さな後ろ姿は、彼女が足を進めるたびにゆらゆらと白いワンピースを揺らしていた。
まるで海月、というか、雲というか。
色素の薄い髪の毛は、潮風に煽られてふわりと舞う。
その髪を綺麗にまとめあげて、豪華なドレスでも着ればよっぽど映えるだろうに。
(でもまあ…息、詰まるよな)
綺麗に着飾る面倒くささと疲労感は、俺がいちばん分かる気がする。
彼女には白よりも、青やエメラルドなどの少し濃い色の方が映えるだろう。
でも、その白が彼女の今にも消えてしまいそうな唯一無二の美しさの根源なんだろう。青やエメラルドを着た彼女は、今彼女に感じる魅力を全て消し去るだろう。
その辺にいる普通の女になってしまうような、そんな気がする。いや、彼女も女の子であるのは間違いはないんだけど。
彼女のこの神秘的な儚さが一気に普通になってしまうのは、なんだかとても解せない。
「…帰るか」
身体を少しよじって、コンクーリート道路に足をつける。
投げ捨てるように置いていたバックを拾い上げて、肩にかけた。
「はあ、」
ため息がやけに周囲に響いた。
堤防に打ち付く波の音。しつこいくらいに泣き叫ぶ蝉。水平線に沈もうとする夕日。
それら全てに背を向けて、家路をたどった。
今のあの場所は、やはり何かが物足りない。
「花火?」
「今日、えーっと…あっ、ちょうどあの辺かな?あの辺で、夏祭りがあるんだって」
彼女の指は空を泳いでから、もう使われていないような閑散とした遠くの港を指した。
祭り、ねぇ?
「クライマックスに花火が、ばーって打ち上げられるんだってさ。毎年すごいらしいよ。みる?」
花火、ねぇ?
「いや、見ないと思うけど。花火なんか興味ないし」
花火にはあんまり興味が無い。ただの火薬の爆発と炎色反応でしかないと思ってしまう。
そんなものを、なぜ人混みに出向いてまでみるのか。それのどこに風情だとか感動だとか生まれるのか、わからない。
俺にはそんな和の美しい感性を持ち合わせていない。
「えー、もったいないな。人生つまんなそ」
そう言って彼女は海に向かってそっぽ向いた。
「余計なお世話だ」
「毎年、夏にしか見れないのに。…ね、私今日ここで見るから、君も来なよ」
彼女はもう一度こっち顔を向け、にっこりと笑う。
「あー、うん」
「聞いてないでしょ!」
俺の適当な相槌にビシッと人差し指を立てた。
「気分が乗ったら来るよ」
「あー来ないやつだ」
うるさいうるさいと適当に相槌をうっていたらすっかり拗ねてしまったようで、視界の端に映る彼女は、腕を組んで頬を膨らませていた。
「私、今日はもう帰るね!」
「あそう」
「またね、くらい言いなさいよ」
「おう」
もう!と小さく声を上げて彼女は身を翻して行った。
少し、冷たく接しすぎただろうか。
海だけを見つめていた目を、気になって彼女の背中へ振り向けた。
その小さな後ろ姿は、彼女が足を進めるたびにゆらゆらと白いワンピースを揺らしていた。
まるで海月、というか、雲というか。
色素の薄い髪の毛は、潮風に煽られてふわりと舞う。
その髪を綺麗にまとめあげて、豪華なドレスでも着ればよっぽど映えるだろうに。
(でもまあ…息、詰まるよな)
綺麗に着飾る面倒くささと疲労感は、俺がいちばん分かる気がする。
彼女には白よりも、青やエメラルドなどの少し濃い色の方が映えるだろう。
でも、その白が彼女の今にも消えてしまいそうな唯一無二の美しさの根源なんだろう。青やエメラルドを着た彼女は、今彼女に感じる魅力を全て消し去るだろう。
その辺にいる普通の女になってしまうような、そんな気がする。いや、彼女も女の子であるのは間違いはないんだけど。
彼女のこの神秘的な儚さが一気に普通になってしまうのは、なんだかとても解せない。
「…帰るか」
身体を少しよじって、コンクーリート道路に足をつける。
投げ捨てるように置いていたバックを拾い上げて、肩にかけた。
「はあ、」
ため息がやけに周囲に響いた。
堤防に打ち付く波の音。しつこいくらいに泣き叫ぶ蝉。水平線に沈もうとする夕日。
それら全てに背を向けて、家路をたどった。
今のあの場所は、やはり何かが物足りない。