この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~

3. 切ない言霊の効果

 家を出たとき以上に暗い顔をした明日香は、自宅へ帰り着くとすぐにベッドへと倒れ込んだ。

「どうして……」

 痛む胸を押さえながらつぶやく。

 もしかしたらと、ほんのわずかだけ抱いていた希望を打ち砕かれてしまった。

 慶介がなにも話してくれなかったことが悲しくてたまらない。

「どうして嘘なんかついたの……」

 奈菜とのことを根掘り葉掘り訊こうと思ったわけではない。ただ正直に話してほしかっただけ。慶介が奈菜と会うことにはどうしても特別な意味が生じてしまうから、恋人である明日香には隠してほしくなかった。

 どんな理由で会っていたかは言わずとも、せめて奈菜と会っていたことだけでも話してほしかった。

 それなのに、慶介は問いかけすべてに対して、誤魔化しの言葉しか返してくれなかった。

 二人で会っていたのは、おそらくなにかしらの事情があったのだろう。明日香が将人から結婚報告を受けたときのように。

 事前に明日香に話さなかったのも、明日香のことを気遣ってくれたからかもしれない。

 でも、嘘をつかれてしまえば、彼を信じるわずかな希望も消え失せてしまう。

 嘘の言葉を聞くまでは、慶介の想い人が自分である可能性もまだ捨ててはいなかったが、やはりあのときに見た慶介の笑顔こそが、彼の本当の想いということなのだろう。

 なにしろ明日香からの本気の『好き』に、慶介は応えてくれなかったのだ。

 二人が『好き』の言葉に『本当に』という言葉を冠したなら、それは特別な意味を持つ。偽りの『好き』を超えて、本物の『好き』になったのだと。

 慶介がそれをわからないはずはない。

 それなのに、彼の反応はいつも通りだった。いつも通りに『好き』と言ってくれただけだった。

 どうやら言霊の効果が表れたのは明日香だけらしい。ちゃんと心変わりができたのは、明日香ただ一人だ。

 明日香はこの先のことを考えて、深くため息をこぼす。

 このまま慶介に恋人の振りを続けてもらう道もあるが、一度両想いを夢見てしまった以上、それは明日香にとってとても険しい道となるだろう。慶介にとっても、今の状態を続けているのはいいとは言えない。

 会社で交際宣言までしているから、本当に彼を自分に縛りつけてしまうことになる。

 お互いの幸せを考えるなら、ここらが実験のやめどきなのだ。最後に焼きつけた彼の笑顔だけを心の支えにして、別の道を進むのがきっと二人のためになる。

 そんなことを一人で考えていたら、枕元にぽんと投げていたスマホが震え出した。
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