この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
 すっかり日も暮れ、江の島を離れれば、別れの時間が訪れる。いつもならば、適当に言葉をかけてさっさと帰宅するが、今日は感謝の気持ちを素直に慶介へと伝える。

「慶介、今日はありがとう。すごく楽しかったよ」
「俺も。今日は楽しかった」

 慶介の表情が本当に楽しかったと物語っている。そのことに明日香はほっとする。

 今日の時間がもしも慶介にとって耐えがたいものだったならば、二人の実験は続けられなかった。終わりにするしかなかっただろう。

 でも、明日香は今日一日で思ってしまった。慶介ともっと恋人としての時間を過ごしてみたいと。

「あのさ、慶介が嫌じゃなければ、まだこの関係、続けてもいい?」

 恐る恐る窺えば、慶介は躊躇わずに頷いてくれる。

「いいよ。明日香の気の済むまで付き合ってやる」

 明日香の顔に喜びが広がる。慶介とまた今日のように過ごせるのだと思うととても嬉しい。

「ありがとう、慶介。本当にありがとう。じゃあ、よろしくお願いします」
「おう。よろしく」
「それじゃあ、またね。慶介」
「ん。明日香、またな」

 手を振り合って別れる二人の間には、初めて名残惜しさが生まれている。恋人と呼ぶにはまだほど遠いが、友人からは確実に一歩踏み出したと言えるだろう。

 明日香の胸の中には小さな小さな希望の光が宿っていた。
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