お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています
ストレッチャーの揺れに身を任せながら、紗良は仰向けに運ばれていく。

目の前の天井が流れるように遠ざかっていくたび、ふとした瞬間にアイスピックの光景がフラッシュバックし、息が詰まりそうになる。

「大丈夫、私がついてます。もう安全ですから」

横に並走していた松浦が、優しい声で語りかけた。

救急車に乗り込む際、橘が声をかけてくる。

「松浦が同乗します。紗良さん、病院までは数分です。落ち着いて」

橘の声は、現場での慣れを感じさせる冷静さに満ちていた。

その後ろで、河田が搬送先の病院へ連絡を入れながら、手早く周囲の配置を指示する。
旗野の姿はまだない。制圧後の現場対応で、彼は今も株主総会の会場に残っていた。

替わりに、村上がすぐに随伴に名乗りを上げる。

「自分が後方車両を担当します」

橘が軽くうなずく。

やがて、サイレンを鳴らしながら救急車が発進。
そのすぐ後ろを、警護車両がぴたりと寄り添うように続いていく。

救急車内で、松浦は紗良の手をそっと握った。
その手の震えが止まらないのを、何も言わずに、ただ見守り続けていた。
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