お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています
処置が一通り終わると、紗良は看護師に車椅子を押され、見覚えのある廊下を進んでいた。

案内されたのは、ホテルのように整った個室だった。
静かすぎるほどの室内に通され、ベッドに横たえられる。誰もいない、ただ一人の空間。

天井を見上げながら、紗良は思った。

――ああ、私はまたここに戻ってきてしまった。

いつか母が入院していたあの頃、何度もこの病院を訪れていた。
その空気が、今も少しも変わらずに残っている。

医師は、落ち着いた口調で説明した。

「肩の傷は浅いですが、貧血気味なので少量の出血でも立ちくらみなどが出る可能性があります。血が止まりにくい傾向もあるため、しばらくは極力右肩を動かさず安静にしてください」

それに続けて、足首についてもこう言われた。

「右足首は中度の捻挫です。レントゲンでは骨に異常はありませんが、腫れと痛みが強いため、固定と数日間の安静が必要です」

紗良はそっと足をベッドの上でずらしてみる。
わずかに体重が乗っただけで、足首に激痛が走った。

――よくこれで控え室まで逃げられたな……。

そう思ったとたん、急に全身が重くなって、ベッドに沈み込むように脱力した。

いつの間にか、服は病院の入院着に替えられていた。
ゆるく着せられたそれは、否応なく“病人”であることを自覚させる。

窓から差し込む白い光が、あまりにも眩しすぎた。
< 151 / 237 >

この作品をシェア

pagetop