お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

守るための眼差し

午前10時過ぎ。
紗良は一階のガラス張りの会議室で、
若手の部下と広報資料のデザインや文章校正について意見を交わしていた。

「ここのコピー、もう少し柔らかい表現にしましょうか。訴求力はあるんだけど、ちょっと固いかなって――」

そんな風にいつも通りの会話をしていたその時――
会議室の外、エントランス付近がざわついた。

何人かの社員が目を丸くしながら立ち止まり、
誰かが「警備呼んで」と声を上げるのが聞こえた。

視線を窓の向こうに向けると、怒号が響いた。

「お前らのせいで、俺たちは会社を潰されたんだ!」
「俺たちははめられたんだぞ!談合なんてしていない!差し向けたのはお前たちだろうが!」

中年の男が、受付の前で暴れていた。
髪は乱れ、顔は真っ赤に火照り、手には何かの書類のような束を握りしめている。

その瞬間――
松浦が、腕につけた小さなマイクに何かを素早く呟いたかと思うと、
会議室のドアの前にスッと移動し、紗良と出入り口の間に静かに立ちはだかった。

その表情は、普段の柔和なものとは一変していた。
一切の感情を排した冷静な顔に、鋭い眼差し。
目線の先には、騒ぎを起こす男の姿が正確に捉えられている。

(……あの松浦さんが、こんな目をするんだ)
紗良は一瞬、息を呑む。

数人の警備員が受付に駆けつけるのが見えた。
会社の社員が何人も足を止め、
エントランスに注目する中、
松浦のその静かな緊張感が、逆に周囲の空気をピリつかせていた。

紗良はまだ騒ぎが広がる前に、そっと部下に囁く。

「すみません、少しだけ中断させてください」

そして、松浦の背中を見つめながら、何が起きるのかを黙って見守った――。
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