「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
「美桜、お待たせ」

 波の音に耳を傾けていたら、春希さんの声がした。
 目を開けると、愛しい人の顔がある。

「はい。イチゴソフト」
「ありがとう」

 感謝の気持ちを込めて口にした。
 それから、ベンチに三人座ってアイスを食べる。

「さっきパパがママとはあの階段で出会ったって」

 希が思い出したように、歩道と浜辺をつなぐ階段を指す。
 不安でたまらなかったあの夜、階段に座り、泣いていた。

『大丈夫?』

 そう声をかけてくれた優しい男性は、今は私の最愛の人だ。そして、『逃げていいんだよ』という言葉が私に勇気をくれた。逃げたからこそ、立ち向かう勇気が湧いた。逃げることは負けじゃない。次の活力が溜まるまでの避難だ。あの時、逃げ出さなかったら、きっと今の幸福は掴めなかった。

「春希さん、あの時、声をかけてくれてありがとう」

 ソフトクリームを食べていた春希さんが私を見て微笑む。

「こちらこそ、出会ってくれてありがとう」

 春希さんの言葉に胸がいっぱいになる。

「希。ここはパパとママが出会った大事な場所なのよ」

 希に向かって言うと、意味がわかっているのか、神妙な表情で頷いた。それが可愛らしくて、春希さんと同時に笑った。
                                     
 終
< 178 / 178 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

さよならの勇気~お隣さんはクールで意地悪な産業医~
コハラ/著

総文字数/31,994

恋愛(オフィスラブ)42ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
初めての彼・石黒と同棲する為に家賃の高いマンションに引っ越した一条綾乃。 お隣には会社で顔を合わせる産業医の森沢誠二が住んでいた。 同棲すると言いながら、中々入居しない石黒を一人で家賃を払いながら待つ綾乃は、 高い家賃を払う為に近所のファミレスでも働き始める。 そんな綾乃に森沢が「不誠実な彼とは別れた方がいい」と助言する。 最初は森沢の助言に怒っていた綾乃だったが、段々、石黒の本性が見えて来る。だが、一人になるのが怖い綾乃は石黒と別れられない。 はたして綾乃は不誠実な彼、石黒と別れられるのか? そして、森沢との関係はどうなる? 登場人物 一条綾乃(27) 大手食品メーカーハッピーフーズ人事部労務担当の地味なOL × 森沢誠二(32) 意地悪でクールなハッピーフーズ産業医 ―――――――――― 目を留めていただきありがとうございます! 2025年8月21日完結。
結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました
  • 書籍化作品
表紙を見る 表紙を閉じる
「僕と恋愛感情抜きの安全な結婚をしませんか?」 再会した大学の先生からの突然のプロポーズ。 父の見合い話から逃げる桜子にとっても都合のいい提案だった。 しかし――。 「僕を好きにならない女性と結婚したいんです」 先生が必要なのは自分を嫌う女性だった。 表向きは先生が苦手だと言っていた桜子は本当は先生の事が好きだった。 先生を好きだという気持ちがバレたら終わってしまう結婚。だから断った。 でも、先生は桜子を諦めない。 「九条さんが承諾してくれるまでプロポーズしますから」 先生に素直に恋心を伝えられない九条桜子の恋の行方は? 【登場人物】 素直になれない、こじらせ銀行員 九条桜子(26) × 強引な大学准教授 (実は北沢不動産御曹司) 北沢海人(36) ―――――――――― 3月15日完結。 おかげ様で8月に大改稿バージョンがマカロン文庫から出ます! ~憧れの街ベリが丘~恋愛小説コンテスト 優秀賞受賞! ありがとうございます!
課長に恋してます!
コハラ/著

総文字数/103,229

恋愛(オフィスラブ)174ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「好きです。課長に恋してます」 上村課長に片思いして三年、初めて自分の気持ちを口にした美月。 しかし、課長は香港に転勤になり、それでも課長を諦められない美月は? 19才年上の上村課長に片思いする、OL美月の恋物語。 ※「課長に恋するまで」の続編です。 https://www.berrys-cafe.jp/pc/book/n1681541/ 連載開始2022.11.6~ (エブリスタで連載した物を加筆修正しながら連載中です)

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop