「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。
「あっち」

 そう言って先生が図書館を出る。そのまま歩いて駐車場を出て、隣の駐車場スペースに入る。そこにはイートインコーナー付のパン屋がある。焼きたての美味しいパンが売っていて、種類も沢山ある。
 先生がパン屋の前で立ち止まる。

「ここに入りたい。前回、図書館に来た時に気になったんだ。イートインスペースで食べたかったけど、一人だと何だか入りづらくてさ」

 確かにパン屋の外にあるイートインスペースは家族向けになっていて、一人は入りづらいかもしれない。

「ここのパン屋さん、パンを買うとコーヒーを無料サービスしてくれるんですよ」
「へえーそうなんだ。藍沢さんよく来るの?」
「時々来ますね。学生の頃は毎日のように来てましたけど。私、ここのクリームパンが大好きで。おかげで高校時代は少しぽっちゃりしたんです」
「藍沢さんは痩せているから、少しぽっちゃりするくらいが可愛いと思うけどな」

 痩せていると思われていることに驚いた。

「私、全然痩せてませんよ。着やせしているだけです。もうお風呂に入る度に下腹部と太腿のお肉が気になって、気になって。絶対に先生に見せられません」

 勢いで先生に見せられないと口にしてしまう。先生と体の関係になりたいと言っているような意味にも聞えて焦る。

「あの、今のは深い意味ないですよ。先生と全裸を見せる関係になりたいなんて少しも思ってませんから」

 慌てて否定するが、驚いたように目を見開く先生を見て、さらに墓穴を掘った気がする。

「いや、あの、行きましょう」

 誤魔化すように店に入った。扉を開けるとカランというベルの音がする。
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