恋とクリームソーダ
2015年、夏


15歳。


白いレースのカーテンが、扇風機の風に揺れていた。
保健室。
あれ、なんで私ここにいるんだっけ?どうやって来たんだっけ。


そっとカーテンの端を捲ると、そこには、脚を組んで本を読んでる葉月がいた。
「葉月、」


葉月が、あ、って小さく声を漏らす。
読んでいた文庫本をパタン、って閉じる。「大丈夫?」
「うん。」
「急に倒れたから、びっくりした。」


理科室を掃除してたとき、急に立ち上がったら立ちくらみがして、そのまま倒れた。そういえばそうだった。目の前が真っ暗になってからの記憶がない。


「誰かが運んでくれたの?」


「うん、俺と、髙橋」
「ありがとう。」
「いいよ、今日暑いし。部活だるいし。」
でも榎本が起きたからもういかないとなあ。
って、遠い目をしてため息をつく。


こういうところは高校生っぽくて、年相応でかわいい。いつもの葉月は大人びていて、違う世界の人って感じがする。


ふふ、って笑ってしまう。
「私もっかい寝ようか?」
葉月が頭を横に振って笑う。「いい。どうせ誰も来ない。バレないやろ。」


外からはサッカー部の練習する声、蝉の鳴く音、グランドの土埃。ここは冷房の効いた保健室。窓を隔てただけのこのふたつの空間が、全く違う世界にあるみたいで不思議な感覚がする。
この感覚が、永遠に続くような気がしていた。私はこの世界のことなどまるで何も知らない高校生だった。




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