蜜味センチメンタル
夜の街は、クリスマス一色だった。街路樹に巻かれたイルミネーションが風に揺れ、行き交う人々の笑顔がまるで映画のワンシーンのように輝いて見える。
けれど、羅華の胸の中は穏やかではなかった。光が眩しければ眩しいほど、自分の中にある不安や迷いが浮き彫りになる気がして、はやる気持ちで歩いていた。
那色に、会いたい。
そう願う気持ちだけは、嘘じゃなかった。
那色の顔を思い浮かべるたび、自然と足が速くなる。あの日、嵐が言った言葉が脳裏に蘇る。
——「マジで末期。完全に恋の病」
軽口のように聞こえたけれど、その言葉は羅華の胸に沁みていた。そんなふうに誰かの思いが心に響くことなんて、もう二度とないと思っていた。
けれど今やっと、彼の言葉を信じられそうだった。
店の前にたどり着き、ふと立ち止まる。
——大丈夫。ちゃんと、伝える。
深呼吸をひとつして、ガラス越しに中を覗く。
カウンターの奥で那色が立っていた。いつもと同じ、制服の黒いシャツ。でもなぜか、今夜は違って見えた。
目が合った瞬間、那色の表情がふっと崩れる。
その顔を見た瞬間、羅華の胸の奥が温かくなる。
——ああ、わたし、来てよかった。
緊張していたのは、きっとお互い様だ。
那色はゆっくりと店を出てきて、寒さも忘れたように微笑んだ。
「…来てくれたんだ」
その一言が、羅華の胸にまっすぐ届く。喉がつまってうまく言葉が出てこないけれど、気持ちだけは、はっきりしていた。
「遅くなってごめん。……でも、那色くんに会いたいって…思ったの」
言いたいことはたくさんあったはずなのに、それだけしか言えなかった。