蜜味センチメンタル
けれど少しだけ、心が軽くなった。
那色の笑顔がゆっくりと深くなる。いつもの柔らかい笑顔とは違って、どこか切実で、隠しきれないほどの嬉しさが滲んでいた。
「来てくれなかったら、諦めるって言ったけど……」
那色の瞳がほんの少し潤んだ気がした。
「本当は諦めたくなんて、なかったです」
——本当に、ずるい。
そんなふうに言われたら、また心がぐらつく。
でも、ぐらついてもいいのかもしれない。
この子になら、揺さぶられても、傷つけられても、それでもいいと思えてしまうから。
——『原岸さん。そうやって悩んでる時間が楽しいんですよ、恋って』
言葉にならない思いを、羅華は喉の奥にしまった。代わりに、小さくうなずいた。
そして那色は一歩踏み出して、羅華を優しく抱きしめた。その温もりが心の奥の張り詰めた糸を、ゆっくりと解いていく。
「……あと少しで上がるから、ちょっとだけ待っててくれる?」
那色はそっと腕をほどきながら、名残惜しそうにそう言った。
羅華は少し戸惑いながらも、小さくうなずいた。
「うん。待ってる」
那色が店内に戻っていく背中を見送ったあと、羅華はポケットの中で手を組む。
——この気持ちに、ちゃんと向き合えてよかった。
冷たい風が頬をかすめるけれど、不思議と寒さは感じなかった。
バイトを終えた那色が、手を振りながら店を出てくる。
「お待たせしました。……寒くなかったですか?」
「ううん。大丈夫…というか、今更だけど帰ってよかったの?クリスマスだし、忙しいんじゃ…」
「平気です。元々、羅華さんが来てくれたら帰るって宣言してたんで。こういう時店長が身内だと融通利きやすいですよね」
「…それ、職権濫用…」
「身内の特権って言ってくださいよ」