蜜味センチメンタル
やはり旧知の仲だったらしい。疲れたように言う大和に、羅華は止まっていた手を動かして最後の一口を食べ終えた。
「そんなに前から知り合いなんですか」
「あいつが子供の頃から知ってる。だからかな…つい甘やかしちゃって。あとできつく叱っておくよ」
「あ、いいです。本当に」
「でも…」
「なんていうか…怒りっていうより驚きが強くて。これまでこの話したらいい加減忘れなよとか、忘れさせてあげるとか、やっすい台詞は何度も言われてきましたけど…くだらないって切り捨てられたのは初めてでした」
「……」
「自分に酔ってるとまで言い切られたら、いっそ清々しい気すらしてて」
マゾじゃないはずなんですけどねと誤魔化すように笑うと、大和はなんとも複雑そうな表情を返した。
そんな大和の前で手を合わせて「ごちそうさまでした」と言い、羅華はゆっくり立ち上がる。
「食べ終わったので帰ります。思ったより疲れてたみたいで。お酒…注文しておいてごめんなさい」
「いやいいよ。寧ろこっちが迷惑かけたし、今日の代金はいいから」
「え!?そんな、だめです!」
「その代わり近いうちにまた来てよ。那色にもちゃんと謝らせるし、今日の分はあいつにツケておくから」
「……」
大和は穏やかに笑っているが、どこか圧を感じる。ここまで言ってくれているのに抵抗もし辛く、羅華は小さく「分かりました」と告げた。
「来週の土曜日は、那色くんいますか」
「居るよ。定休日の月曜と水曜以外は大体シフト入れてる」
「分かりました。じゃあまた、今日くらいの時間に来ますね」
改めて謝罪を述べる大和に見送られ、羅華は店を後にした。
——出会った事のないタイプの子だったな…
それに何故か憎めない。これが魔性の魅力というものなんだろうか。
そんなことを考えながら、すっかり暗くなった自宅への道のりを歩いていった。