蜜味センチメンタル
絞り出すように告げた言葉が、どう届いているのか不安だった。けれど那色は何も言わずに、ただ優しく涙を拭ってくれた。
頬に、目尻に、額に。そのたび、那色の唇がそっと触れてくる。
触れるたびに、胸の奥が温かくなって、呼吸が楽になる。
「大丈夫。僕は、ずっとそばにいますから」
そう囁かれた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。今まで、自分にそんな言葉をかけてくれる人がいたことなんて、あっただろうか。
那色の手が頬に添えられた。
その手がかすかに震えているのに気づく。 不安でも迷いでもないその優しさと真剣さに、羅華の心がまた震えた。
——この人は、こんなにも私を想ってくれてる
それだけで、言葉が出なくなった。
「……那色くん……」
名前を呼んでも、それ以上が続かない。
けれど、もう何も言わなくてもいいような気がした。
恐る恐る、那色の胸に顔を埋めた。
まるで、長い旅を終えて帰ってきたようだった。やっと見つけた居場所に、そっと身を預けるような。
那色の腕が、優しく羅華を抱きしめ返した。心地よさと安心で、涙も次第に静かになっていった。
それ以上、言葉は交わさなかった。けれど沈黙のなかには、たしかなものがあった。
——もう、寂しくないかもしれない
そんなふうに思えたのは、那色の鼓動と包み込む温もりがずっと傍にあったからだ。
静かな夜に、ふたりの心が溶け合っていく。
何もないはずのその沈黙が、羅華にはこの上なくあたたかかった。