蜜味センチメンタル
大和はそう言って、短く息を吐いた。
けれど、その声音にはどこか優しさが滲んでいた。
「で?どうだったんだ、そいつは。お前のスペックでも太刀打ちできないくらいいい男だった?」
「……わかんないです。僕には、何も言ってくれないから」
那色はゆっくりと、ハーブティーのカップを両手で包んだ。
その温もりすら、頼りなく思えるくらい、胸の奥が冷たくなっていた。
「でも大体は想像つきますよ。どうせ今さら、まだ忘れられないーとか図々しい事言ってるんでしょ。……それで、彼女を揺さぶってる」
怒りで喉の奥が詰まりそうになって、言葉が途切れた。
軽く流そうとしても、ふつふつと内側に込み上がるものはどうしようもないなかった。
「……僕、羅華さんにとって、特別な存在になれたと思ってた。でも……僕の知らない過去に、まだ触れちゃいけない場所があるんだなって」
ぽつりと漏らした本音。
けれど、大和はあっさりと答えた。
「あるだろ、そりゃ。羅華ちゃんだってその男だって、一人の人間なんだから」
その言葉はあっけないほどに簡潔だった。
けれど、それは否定ではなかった。ありのままを肯定する、静かな言葉だった。
「けどな」
間をおいて、大和は那色のほうを見た。
真剣な眼差しで、ゆっくりと続ける。
「それでもお前が彼女のそばにいたいって思うなら、全部を受け止める覚悟を持つしかないだろ。信じるってのは、過去に勝つことじゃなくて、“今ここにいる相手"を選び続けることだからな」
その言葉に、那色は思わず顔を伏せた。
胸の奥が、ひどく疼いた。
選ぶ。信じる。待つ。
その全部が、こんなに難しいなんて、知らなかった。
でも——。
「……僕だって、羅華さんに選ばれたいですよ」
ぽつりと落とした言葉は、正直な本音だった。
「だけど僕は彼女より4つも下だし、どうせ我が儘で頼りない存在とでも思われてるんだろうし。…誰かさんみたいに、全然大人の余裕なんて無いし」
「お前のその、年上に対する異常な対抗心はなんなんだよ」
大和は揶揄うように少しだけ目を細めた。
「まあ全部、羅華ちゃんへの愛ゆえにってとこか」