蜜味センチメンタル
スマートフォンの画面をそっと開く。未読のまま残っていた羅華からのメッセージが目に入る。
[おつかれさま。無理しすぎないでね]
ほんの短い一文。
けれどそれがまっすぐ胸に染み込んでくる。
「……そんなふうに言われたら、余計に会いたくなるじゃないか…」
ぽつりと、誰にも届かない声がこぼれた。
けれど、その願いはずっと押し込めたままだ。
PCの通知がまた一つ鳴る。式典チームからの修正指示。明日の朝までに対応が必要だ。
彼女と過ごせるはずだった時間は、また書類の中に溶けていく。
でも、それでも。那色の想いだけは変わらなかった。
会えなくても、忘れた日は一日もない。遠くに響く時計の秒針が静かに時を刻む。
那色は小さく息を吐き、もう一度だけスマホの画面を見つめた。そこに浮かぶ、やわらかな一文。
短く、優しく、何も求めないその言葉が、いまの自分にはいちばん沁みた。
照明を少しだけ落とし、再びデスクに向き直る。少しでも彼女との時間を作れるように、するべきことを今終わらせる。
──式典さえ、終わってしまえば。
スマホの待ち受けに映る、春待ちの写真。梅の花を背に、はにかむように笑った羅華の顔。
それだけが、今の自分を支えていた。
そしてそれはきっと、明日も変わらない。