蜜味センチメンタル
寝てるだけか、仕事で手が離せないか。そう思い込もうとしても、けれどやけに胸の奥がざわついた。
それは言葉にもできないようなほんの小さな違和感。それでも、ふくらんでいく速度が早かった。
数日前の自分なら、ここまで不安にならなかったかもしれない。
けれど今は違う。
式典での嘉島藍良との出来事、そして父から聞いた母の話──“大事な人を守れなかった”という重みが、どこか深くに残っている。
だからこそ、羅華の沈黙が、怖かった。
彼女がなぜ応えないのか。たったそれだけのことに心が追い立てられる。スマホを握る指先に、じわりと力がこもる。
通話の画面に切り替え、羅華の名前を表示させて耳にあてる。ワンコール、ツーコール……そして、留守電へと切り替わる。
──やっぱりおかしい
そう思った瞬間、那色は立ち止まり、深く息を吸った。自分の中の、説明のできない焦りが背中を押し、すぐにタクシーを拾った。
行き先は、羅華の家。雨足は、いつのまにか強くなっていた。